1-10 間章 彼のいないもう一つの側
ヴィクターのパーティーが借りている小さな家の裏にある物干し竿に、一人の少女の姿が現れた。
冒険者の厚手の服が風に翻り、ルーシー(ルーシー)は一枚一枚丁寧に広げて干していく。
最後の服を干し終えると、彼女は長いため息をつき、隣の空き地をぼんやりと見つめた。かつて、そこには使えない少年がしつこく盾の使い方を教えてくれと頼んできたことがあった。
リース(リース)は、冒険者のギルドが新人に渡す標準装備——丸い盾と短剣——を持つ、ごく普通の初心者冒険者だった。
ルーシーも盾を使うが、彼女はルセリア女神の聖騎士の道を歩む者だ。盾を通じて奇跡の魔法を操り、攻撃と防御を自在にこなす。
だが、リースは違う。彼には何もなかった。
ルーシーが教えられるのは、盾の基本技術だけ。それでも、リースは中途半端な出来にしかならなかった。
リースは、アンジェリカ(アンジェリカ)と全く対照的だった。彼女の剣技は高潔で、独自のスタイルを確立していた。
リースは戦えない——それがルーシーの結論だった。
しかし、リースがパーティーから追い出されてから、ルーシーとアンジェリカの家事負担は以前よりはるかに増えた。朝の時間を全て家事に費やし、ようやく昼食の時間に二人で話す余裕ができた。
「ほんと、めっちゃきつい。訓練時間もめっちゃ減ったし。やっぱり、あの雑用係を追い出すべきじゃなかったんじゃない?」
ルーシーの声は疲れ果てていた。手に持ったフォークは、だるそうに肉を突き刺す。
最初は、リースの取り分だったお金で掃除人を雇おうと提案したが、一度雇ってみたところ、残酷な現実に直面した。一回の雇い賃が、リースに分けていた一週間分の報酬より高かったのだ。
結局、自分たちでやるしかなかった。
アンジェリカも長いため息をつき、ゆっくりと首を振った。彼女の目には、明らかな寂しさと悲しみが浮かんでいた。
「彼を追い出すのは正しかったよ、ルーシー。このまま無理に続けさせてたら、絶対に死んでたよ。」
「だったら、危険な任務の時はあいつに『家にいろ』って命令すればいいじゃん。」
「それでリースが素直に家にいるような奴ならよかったのに。」
アンジェリカの声には、珍しい弱さが滲んでいた。もし目の前にいるのがルーシーでなければ、こんな声は出さなかっただろう。
アンジェリカはリースと一緒に育った。彼の性格をよく知っている。リースは表面上は礼儀正しいが、内心は誰よりも頑なだ。置き去りにされるくらいなら、死を選ぶような男だ。彼女がそこまで言うなら、ルーシーは信じるしかない。
「ルーシーも知ってるよね。あの人は、仮に家にいろって命令されても、絶対に何とかしてついてくるよ。あんな彼じゃ、危険な任務で生き残れるわけがない。だから…きっぱり追い出すしかなかった。」
その力のない、か細い声に、ルーシーは心の中で強く思った。——だったら、なんでお前もアイツと一緒に去らなかったんだよ?
だが、そんなことはありえない。アンジェリカはパーティーの主力の一人だし、それにメンバー最低人数のルールがある。もう誰も失えない。
ヴィクターが悪評を重ねたせいで、新たな仲間を入れるのも難しい状況だった。
ルーシーはただ、物干し竿が風に揺れるのを眺め、肉をゆっくり噛んで時間をやり過ごした。
「ヴィクターとアーニャにも家事を少しやらせないとね。」
アンジェリカが話題を変えた。ルーシーが会話から逃げたのを見て取ったのだろう。
「それは無理だよ。」
ルーシーは視線を戻し、口元が下がって笑みは消えていた。
「知ってるでしょ? ヴィクターは『エス』って奴を探すのに夢中で、仕事がなくてもギルドにずっと居座ってるんだから。」
ルーシーの言葉に、アンジェリカは言葉に詰まった。何を言えばいいのかわからないようだった。
「私、ヴィクターが独り言で言ってるのを聞いたよ…『エスがいなきゃ、彼女は死ぬ』って。」
ルーシーは肉を口に含んだまま話し、フォークをアンジェリカに向けた。
「エスがいなきゃ、私が死ぬってこと?」
それを聞いて、アンジェリカは眉をひそめ、手に顔を預けて長いため息をついた。少し考えた後、口を開いた。
「でも、エスって誰なの?」
「知らないよ。」
ルーシーは軽く首を振って、皿の肉をフォークで切り取った。
「でもその時、ヴィクターはまだ何か言ってた。『あと二年しかない』って。」
アンジェリカはヴィクターを理解しようとしたが、彼の考えはいつも奇妙すぎた。例えば、特定の人物だけをパーティーに誘おうとするこだわりとか。
「ヴィクターも大概だけど、アーニャはもっとひどいよ。毎日、魔法使いの図書館か寝室にしかいない。一緒にご飯もほとんど食べないし。任務の準備しろって言っても、『わかった』ってだけ言ってドア閉めるしさ。あの女と直接話すとなると、ほんとあの雑用係…いや、リースが気の毒になるよ。」
「リースね。」
「はいはい、リースー。」
アンジェリカに訂正され、ルーシーは声を伸ばした。
ルーシーは知っていた。アンジェリカは本気で怒っているわけじゃない。今、彼女にとって本当の友達と言えるのはお互いだけだ。
「私、このパーティーがあとどれだけ持つのか、自信ないよ…。」
ルーシーは最後の肉を飲み込み、笑みを浮かべてアンジェリカの空になった皿を受け取った。
「だね。こんな状態で『任務成功率最高の新星パーティー』なんて、誰も信じないよね。」
アンジェリカは温かい視線を返し、二人は互いに笑い合った。




