キメラの雷鳥さがし 37
私はジェスファーノさんにお願いして下ろしてもらい、カバンから聖水を取り出した。
「ヒマリ殿、それは渡した聖水では?!」
「せっかく頂いたけど、精霊を助ける為に使わせてください」
言うが早いか、聖水を持ったままルートの所へ歩き出したけど、数歩でその心は砕かれた。
大人しくなっても、凄まじい熱風と炎が身体を撫ぜるからだ。いくら耐性のあるマントでも、目も開けていられない。
『大丈夫か?我が届けよう』
風炎鳥の父鳥が、そう言って私から2本の聖水瓶を嘴に挟んで受け取り、ルートに渡してくれた。しかも、優しい目をした風炎鳥の母鳥が羽を広げて、熱風が当たらないようにしてくれた。
「ありがとう。出来れば、お子さんに聖水を飲ませてあげて欲しいの」
言いながら聖水を渡すと、母鳥が器用に口に含んで子供に聖水を飲ませ始めた。その一口目が喉を通る瞬間に、ルートが杭に聖水をかけた。
聖水は聖なる光りを放ちながら杭を無効化していく。それを見届けたルートは杭を抜いて放り投げると、自身も聖水を飲み干して土台から降りて来た。
「間接的にも触ってしまうから、貴方達も飲んで」
『良いの?貴女の聖水が無くなってしまうわ』
「聖水は必要な時に必要な方が使う方が良いと思うの。教皇様もそのためにこの街に聖水を届けて下さってるのだから」
聖水瓶の蓋を開けて親鳥に渡そうとしたら、口を開けて待っている。その仕草が、ちょっぴり可愛いと思いつつ、そっと聖水を流し込んだ。
聖水を飲んで落ち着いた風炎鳥から憤怒の炎が無くなり、穏やかな炎を纏った状態になった。
『お父さん、お母さん!』
「風炎鳥の子よ、動く前にこれを飲んでくれ」
台座に乗っている風炎鳥の子に回復薬を見せて、傷ついた羽を指さして飛べるようにと説明している。
素直に口を開けて飲むと、傷ついた羽が一枚、また一枚と蘇って綺麗な状態になった。
「ヒマリ、助かった」
「ルート、無事で良かったよ。怪我は?」
大丈夫だと、頭を撫でながら抱きしめてくれた温もりと彼の鼓動に、力が抜けて行くような安堵感をもたらして、自然と涙があふれた。
『そこの剣士と娘よ。我々の息子を救ってくれたこと、心から感謝する。報いる為にも、加護を授けたいのだが』
「俺はルートという。以前に風雷鳥から加護を貰っているから、気持ちだけ貰っておこう。ヒマリを頼む」
「え?」
ルートに風炎鳥の前に押し出され、まじまじと目が合ってしまった。
『ほう、他の加護も受けているのか。よかろう、ヒマリと言ったな。其方と仲間に加護を授けよう』
”憤怒の炎”に耐えられる加護を風炎鳥の父鳥から貰い、母鳥からは”火神の恵み”の加護を頂いた。
「火神の恵みとはどのような加護なのでしょうか?加護の内容を知らなくてすみません」
『我々は火の神の恩恵を受けている。生涯にその加護を渡せるのは1回だけ。王妃はその神の恩恵を授けたのだ』
「1回だけって、そんな貴重な加護を‥‥って、今‥‥王妃って言いませんでした?」
驚く私に優しい声で、火神の恵みについて説明してくれた風炎鳥の王妃様。
火を熾したい場所に永続して火を灯せる、恵みの火なのだと。火を扱う者が欲しがる恩恵だと教えてくれた。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




