キメラの雷鳥さがし 35
「大丈夫だ。たとえ今がどんな状態でも、保護されて親元に帰れば傷は癒えていく。どんな悲惨な現実でも、今を越えれば苦しかった過去と思えるし、大事なのはこれからだからな」
S級冒険者のルート。彼はいろいろな経験をしてきたのだろう。辛酸を舐めたことだってあるのかもしれない。心も体も強く、でも決して孤高というよりは人に寄り添う温かい人。
炎で辺りが黄金色に光る部屋に入って行く彼の後ろ姿を見て、自分も強くありたいと思った。
一歩、また一歩と、部屋に近づいて、部屋の中を見た瞬間、私は涙が出るのを止められなかった。
キィィィィ――――!
羽を地面に縫い留められた風炎鳥は、傷つくのも構わずその身体を起こそうとしていた。幼体から少し育ったのか、中型犬程の大きさに羽があるので体長1mほどになっていた。怒りと悲しみの感情で我を忘れて炎を出している。
その炎が、天井に開いた3つの穴に吸い込まれていた。
「サイゾウ、声が風炎鳥に届く?」
『いや、これは憤怒の炎。怒りに我を忘れている』
「ヒマリ、来たのか。すまないが、ラレーヌを通して風炎鳥の親鳥を探してもらえるか?」
ルートは風炎鳥の傍で足枷の杭を壊している。炎に包まれてもビクともしない強靭さと、燃えないコートや髪は何らかの魔法か魔道具なのかもしれない。
頷いて、部屋から出ようしていたら、私達が降りて来た階段の反対側の奥廊下から、ジェスファーノさん達がやって来た。
「これは‥‥風炎鳥ですね、しかも憤怒の炎!」
「隊長、これは‥‥酷い‥‥精霊に無体を強いるなど」
ジェスファーノさんと聖騎士の方が熱風を防ぎながら、残酷な精霊への仕打ちに怒っている。
私に気付いた聖騎士の一人が、自分たちの後ろに避難させてくれた。
「大丈夫ですか、ヒマリ殿?」
熱風で喋れない私は、小刻みに頷いた。
「ヒマリ、早く連絡を!」
風炎鳥に付いた足かせと羽を縫い留めている杭を取ながら、ルートが叫んでいる。
そうだ、早くしないと!
「ラレーヌ、お願い!風炎鳥を探して、この一大事を伝えて、この子がもう傷つかないように、冷静になれるように処置できる風炎鳥を呼んで!」
『分かったわ、ヒマリは安全な所に居てちょうだい』
サッと姿を現して消えたラレーヌを見送り、聖騎士の方々の隙間からルートと風炎鳥を見守った。
『ヒマリ、見つけたわ‥‥親鳥を送るから、後ろに下がって!』
「風炎鳥の番?!」
「お願い、あの子を助けて!ゴホッ‥‥ッ!」
ラレーヌの導きで風炎鳥の番が飛び出した。叫んだ瞬間に、熱風に喉が焼かれて息苦しくなった私を、ジェスファーノさんが受け止めてくれた。
抱きかかえられて、部屋の外の楽な場所へ移されたけど、息が出来なくて苦しんでいたら、首に手を当てて回復魔法をかけてくれた。
「これを飲んで下さい。私の回復魔法では完治は難しいので」
口に当てられた回復薬の瓶から流し込まれた液体を飲み、痛みも苦しさも完全に取れて身体から力が抜けていった。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




