自分なりの休みを
初日に大通りと冒険者が行くお店を紹介してもらった私だったけど、まだ行っていない場所があった。
それは、この国の図書館だ。大体、書物から生活様式や水準とか思想や思考などいろいろな事がわかる。でも、この場所は諸刃の剣‥‥今の私には、鬼門になってしまう。
一番行きたい場所を後回しにして、私は賑やかな朝一に連れてきてもらっていた。
「朝一の賑わいは活気があって良いだろ?」
「凄い‥‥」
人込みは人込みでも、通勤通学の喧騒とは違っていた。生き生きとした人々の営みと掛け合う挨拶。そのどれもが新鮮で心躍るような感覚がある。
「こう言うのは、初めてか?」
「そうね、都会の喧騒って、もっと無機質で冷たい感じだから。活気があるって表現なのかな」
「そうか。なら、折角宿屋で朝抜きにしたんだ、ここで食べて行こう」
ルートは近くの屋台に声をかけている。
「有言実行、はやっ!」
「ほら、このモーモギューの串焼きは上手いぞ、あそこの椅子に座ろう」
屋台の立ち並ぶ道には、間隔を置いてテーブルと椅子があったり、ベンチのような物があった。それに座って食べようと言っているようだ。飲み物も買ってきたのか、長椅子に串焼きの乗った皿とコップが置かれていた。
トールさんは全てにおいて、手際が良くて素早く動いている気がする。
「これ食べたら、パンも美味しいところがあるから行ってみるか?」
「食べられるかは分からないけど、場所だけは知っておきたいかも」
「なら、案内しよう」
モーモギューの串焼きは結構な長さがあった。1本が30cm程の串なので2本食べるとさすがにお腹いっぱいになった。肉汁と旨味が溢れる串焼きは、トールさんが褒めるだけあると思う。
「どうした?」
「朝からお肉の串焼きって凄いなと思って」
「そうか?朝だからこそ、だろ?」
この世界は冒険者が活躍する世界だから‥‥朝摂取した食べ物は、日中の身体の栄養になるわけで、彼の言う『朝だからこそ』の考えになるわけだと、この世界の一部に触れた気がした。
「この後はどうしたい?」
決して急かさないで選択肢をくれるトールさんだけど、一日付き合って1つだけ分かった。この質問が一番困ると知っていて聞いてくるドS様だという事を!
「このままお店を見て回るのは?ある程度、何処で何を売っているかとか、この町の近くには何があるかとか、生活する上で知っておきたいことが山ほどあるから」
「それは休みになると思うか?」
「なら、図書館に行く。図書館なら本を読むだけだし、身体は休まるわ」
「目が休まらんだろ?」
あー言えば、こー言う!しかも、ニヤリと笑っている所が、悔しいくらいに様になっていて絵になる。自分が8割増しに見えるって知っていてやってる気がする。
「トール、あんた彼女に嫌われちまうよ?意地悪してないで、トレントの森やホワイトミニバードの公園なんかに連れて行ってやれば良いじゃないかねぇ」
「トレントの森?ホワイトミニバードの公園?何それ?トール?」
私達の会話を遠くで聞いていた串やのおばちゃんが、トールを小突いてくれた。しかも、面白そうな場所まで教えてくれている。私はニッコリとおばちゃんに微笑んでお礼を言った。
「そんな場所に行ったら、疲れるぞ?」
「日本では、休日に美術館に行ったり公園で寛いだりすることもあるのに、トールさんは行くなと?」
日本を引き合いに出してみると、行きたい場所に行けば良いと難なく受諾された。これで、私なりの休みを満喫できるのでは?と思っていたが、まさかあんな事件に巻き込まれようとは思わなかった。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。