装備と選ぶ理由
私はルートさんの顔をマジマジと見た。
「武器なんて、私は戦えません」
「小型ナイフくらいは持っていた方が良いだろう」
小さなナイフで一体何と戦えと?
困り果てていると、ルートさんが小さく笑った。
「戦わせるつもりは無い。ただ、君は休むのが目的だったとしても、いろいろ見て回るなら採取道具になりそうなナイフは持っていた方が、便利じゃないのか?」
「戦わない?採取‥‥ああ!採取用のナイフ?!」
ルートさんは怒るわけでも無く、勘違いを笑って正してくれた。度量が大きいというか、私が把握されているのか、とても大らかというか‥‥寛容なのだ。
「ごめんなさい、武器と聞いて戦わされるのかと勘違いしました。」
謝ったら、それは俺の領分で君は守られる側だと、笑顔で返された。
装備屋の隣にある武器屋で、小さな短剣を数本選んでいると、店主のルッツと名乗る男性が話しかけてきた。
「お前さんの選ぶものは、短剣にも満たない物が多いな。どうやって戦うつもりだ?」
「戦闘はさせない。ヒマリは外の旅人だ。」
「へぇ、じゃあ、このナイフは調理用もしくは、採取用ってことか」
ルッツさんの質問に視線だけで答えている。鍛冶職人と冒険者の見えない何かが有る気がした。
「ルートにしちゃぁ、随分と時間をかけて用意しているじゃないか」
「全て同じ対応にしていたら、この世界に順応できない人間を増やす原因になるだろ」
「嬢ちゃん、アンタはこの先何をしたいんだ?」
いきなり話を振られて、私は固まった。
したい事なんて、今まで研究以外で考えたことは無かったからだ。生活も自分の時間も、全てが研究に関係した何かだった。
「何をしたいかは、まだ考えていません」
本音だった。何をしたい?と言うより、1つの疑問があったからだ。
「ルートさん、もし私がこの世界の草花の薬効を調べたいと思っていたら、それは『休む』という目的から逸れてしまいますか?」
「嬢ちゃん、難儀な性格だな。したいことをするのが休日の過ごし方ってもんじゃないのか?」
「ルッツ、ヒマリの場合は少し違う。心身共に休むことが前提だ。ここで調査なんかをしたいことに選ばせたら、それはもう生業になる。休み方を知らない人種なんだ」
ルートさんは私を私以上に知っているのでは?と思えるくらい、『社畜』の事を理解していた。そう、私は休み方が分からないのだ。
本当にしたい事が分からないために、休みの日も研究に充ててしまう職業病のような面倒体質。
「ヒマリ、お前のやりたい事がお前を休ませない理由なら、休みながらやりたい事をできるようにすれば良いだけだ」
「ルートの言う通りだな、仕事に集中するのは良いことだ。だがよ、やり過ぎは良い仕事を生みはしないぜ?」
何か大切な言葉を二人から貰った気がした。
自分が選んだナイフを見て、そこに彼らが言っている何かが有る気がした。
「ルート、道具屋ならファルの所が良いポーションとか揃えている」
「ああ。後で行ってみる」
気心知れた仲間のように、ルッツさんはルートの肩を軽く叩いて笑っていた。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。