ヒマリの気持ち 2
大泣きした日から、執事のセバスさんから花束や手紙の知らせを受けることは無くなった。
ザラファノさんも、日本からシオンヒークに嫁入りした女性の話を知っていたため、私の行動に違和感を持っていたらしい。
ファルの説明で、異世界で頼れる唯一の人がルートであり、心の拠り所で、眠れなくなった私の安定剤のような存在なのだと理解してくれた。
「その、ちゃんと眠れてるのかな?」
「セバスさんが、シルビィさんとルジェッタさんを付けてくれたので、昼間におかしくなることは減ってきています。ファルも居てくれるし、皆さんが居てくれるから」
「そうか。抱え込まないで欲しい。オレは鈍いから‥‥すまない。あと、これを」
渡されたのは犬笛のようなものだった。
「それなら、人間に知られる事無く、エルフ族と獣人族の者に危機を知らせることができるから」
ぶわっと私が泣き出し、慌てるザラファノさん。傍で、感激の涙ですとシルビィさんが淡々と説明してくれている。ここ数日で、私の涙腺はどうにかなってしまったのかもしれない。
「ザラファノさんありがとう。お守りとして首から下げておきます」
「魔石が入っていて音が全て違うように作られているんだ。だから、一回鳴らして彼女達に覚えてもらうと良い」
そのまま立ち上がって、騎士団へと出かけていくザラファノさん。金髪のウェーブがかかった短い髪の後ろがぴょこんと跳ねている。騎士の鎧と剣にマントを羽織っている様が凄く素敵なのに、寝ぐせがあるところは、ちょっとだけ親しみと可愛らしさを感じる。
これがルートなら、いつ如何なる時でも、綺麗な身だしなみで黒をかっこよく着こなしてしまう。寝間着のような簡易的な室内着でも、彼の優雅さが窺えた。
「さ、鳴らしてみて下さい」
「その笛の音が全部違うのは、内蔵された魔石が持ち主の魔力やエネルギーを音波に波形という見えない色を付けるからです」
「そうなの?見ない色‥‥」
――――っ――――っ!
シルビィさんとルジェッタさんの耳がピクピクと動いて、ニッコリと微笑んでいる。私には何も聞こえないけど、2人にはちゃんと聞こえているのが態度で分かった。
「ありがとうございます。ちゃんと覚えられました」
「とても優しい音色で聞き入っちゃいました」
『何かあったのかと焦りましたぞ!』
「!!‥‥ホミバード!」
「うそ、この国にホミバードが来ているなんて!」
「コタロウ、もしかしてこの笛の音が聞こえた?」
目の前に現れたコタロウが、私の腕に乗って来た。シルビィさんとルジェッタさんは勿論の事、セバスさんまで驚いている。
『聞こえるも何も、元々、その笛は精霊にも合図として使われていた物』
「可愛い‥‥ヒマリ様、ホミバードとお知り合いで?」
「コタロウ、もう少し姿見せれる?」
『少しだけ、ならば』
ミニイチゴやブルーベリーをお皿に乗せてコタロウの前に出すと、彼は美味しそうに啄んだ。その姿をシルビィさんとルジェッタさんが涙目になって見ている。若干セバスさんも和んでいる気がする。
『ルート殿は婚儀出席のジスタノ王の手伝い故、長老たちも戻ってくるのは同じ時期になりそうです』
コタロウの説明だと、2日後に行われるハッシュフル王国のファレンシア王女とブロファル宰相の結婚式は、国家間の生中継?的なもので見る事ができるらしい。
イレギュラーで、私が此処にいる間、婚儀に出席する国王夫妻の護衛を担当することになり、魔導士がB級までしか入れないので、Sランクのルートに話が回って来たという。
「精霊を北の大地に招致するのに、かなりルールが多いのね?」
「精霊の根本は困っている人間を補助するような意味合いが大きいので、魔力の数値が低い程強力な精霊に来てもらう確率が上がると言われていますよ」
シルビィさんの博識さも凄いけど、事情通というか分かりやすく説明してくれるのも有難い。
「ファル様は魔道具の作成に入られているようです」
「やっぱり、私だけ暇なのね。少し敷地内の薬草とか見て回りたいのだけど付き合ってもらっても?」
「もちろん、お供しますよ!ね、シルビィ」
午後はこの世界の薬草を調べてみようと思った。




