第二王子グロット 2
各国の対応は早かった。
精霊に対して、誠実な対応をして来た国や、信仰のあった国は猶予期間を戒め期間として過ごし、加護によって文化的で安全な生活が出来ている事の再確認をする日と定めたらしい。
一方、精霊に対して、非道な行いをした者がいた国は、その洗い出しに難航していた。それは、逃げ切れると思う者や地位のある者は自分はお目溢しされると勝手に判断しているからだと、ラレーヌとハンゾウ長老が教えてくれた。
『人が人として、間違いを正さなければ、大変な事になるのう』
『あら、私は手っ取り早くて良いと思うわ』
「何が手っ取り早いの?」
何気なく聞いてみたら、この世界の理のような説明を聞くことになった。
『報いは自分にかえるってことよ』
ラレーヌの説明によると、人間は未熟であったために精霊に頼りっぱなしなのだという。何が?と問えば、良くも悪くも原因と結果は本人に返される。因果応報の悪い部分を精霊が助力して直撃しないようにしていたらしい。
例えば、利益だけを求めて森林伐採しすぎて土砂崩れや雪崩が起きやすくなっている事を啓示で教えたり、木々の発育を早めたり。
他にも、地形を考えずに治水工事を中途半端に行った業者いて、その被害を軽減するよう尽力したりと、聞いていて物凄い恩恵と守りを与えていたのだと驚いた。それと同時に、精霊はオカンですか?とツッコミたくなるような寄り添いをしているのだと。
人は守るべき者という範疇の一部を考え直し、悪人だけを除外するらしい。
他にも、今まで精霊上位種が守って来たという。人間の行き過ぎた結果に対して、自然が猛威を振るったとしても、手出ししないでおくことにしたらしい。
考え反省する機会を奪う事は、増長した高慢な者を生みだす結果となり、最終的に精霊達に仇なす者になり果てるのなら、精霊も改めて接し方を変えていく必要があると雷鳥やシルフなどの上位種が結論付けたようだ。
「それが上位精霊が話し合って決めた事なら、人はもっと慎重になった方が良いよね」
『あら、ヒマリは人間が可哀想~って言わないのね』
いやいや、聞いた内容は十分に恩恵を与えられたものばかりじゃないかと思ってしまう。
そもそも、守護や加護がどうして当たり前のようになっているのかが分からない。外から来た私は、恩恵があるだけで物凄いことだと思うけど。
バタン!
「ヒマリ、いる?」
「ファル?」
ファルのお店の奥で店番兼お茶をしていた私は、駆け込んできたファルの声に反応して立ち上がった。息を切らした彼が、私の顔を見てホッとしている。
「エサル王が刺されて、末のファレンシア姫が人質に取られた!」
「え?!刺された?エサル王が?」
第二王子のグロットを擁護する貴族の私兵が王子の手引きで城に入り込み、グロット王子と共謀しておエサル王の暗殺を企てた上、騎士団長とログナージ王太子に阻まれ、逃走した先が王城の奥だった為に、ファレンシア王女を人質に金品を略奪して城外へ逃げたという。
「何で王様の暗殺何て、実の父親なのに」
「エサル王は息子を助けようとしていたんだがな、バカ息子は違ったらしい」
「ルート!」
「悪いが、俺も出なくてはならなくなった。ドリアード、ホミバード、ヒマリの事を頼めるか?」
「悪い、ルートと私は王女救出が絶対でさ。王女は精霊信仰の国に輿入れ予定だから、彼この国の未来の為にも第二王子から救わなくちゃならないんだ。」
そんな込み入った事情があるとは。
「気にせず行ってきて、私で協力出来ることある?」
『ヒマリ、海に向かってるわ。ファレンシア王女は意識が無さそうね。港の飲み屋街に向かっている足取りかな』
「すまない、助かる!ヒマリ、店閉めて隠れてろ!」
「分かったから、二人共気を付けて!」
そう叫んで送り出すのが精一杯だった。
二人が出て行った店のドアの鍵をかけて窓を閉めていく。窓から武装した兵士が大通りへと走っていくのが見えた。
道具屋の窓からは大通りに抜ける脇道が見えるので、大通りにも忙しく行きかう兵士達のやり取りまで聞こえてくる。
『ヒマリ、少し身を隠すのじゃ。街中を王城の兵に扮した、貴族の私兵があちらこちらに潜んでいるようじゃから』
「え?!」
どういう事なのかと思ったけど、ハンゾウ長老に従って店の奥に行く。あまり居住区に立ち入るのは如何なものかと迷いはしたけど背に腹は代えられない。二階に続く階段を上がり切った時だった。
ドンドン、ドンドン!
「何、誰か来たの?」
『ヒマリ、不味い事態じゃ、此処から声を発するな!』




