国とギルドと 3
説明を自分でして貰いたい私は、声に出して呼びかけた。
「ラレーヌ出てこれる?ハンゾウ長老いるかしら?」
『ヒマリは優しいわね。言い切れなかったのでしょう?良いわ自分で言うから』
『控えておりますぞ』
いきなり、私の横に現れたドリアードのラレーヌとホミバードのハンゾウ長老に、周囲は騒然となった。本来、精霊には簡単に会えないものだからだ。それだけ畏怖と尊敬の対象なのだと、周りの反応で分かった。
ラレーヌもハンゾウ長老も、人間が身近なスキルを頂く時に気配を察知させている。ホミバードは見える部分として頭の3本の羽が見えるように難易度を下げてくれていると言っていた。
それでも、全貌を見るのは難しく、生まれながらにそういった敏感な者は冒険者でも上位に座るほど、稀なスキルだと言われた。
『私は怒っている。精霊を物の様に扱い、傷つける事を画策した愚か者が王族と貴族にいる。人間が我々の加護を必要としないと受け取った。だから、私はドリアードとして看過できないこの人間の仕打ちに、加護を取り上げることにしたわ』
『我々、ホワイトミニバード‥‥通称ホミバードも気配察知や隠密のスキルを全ての者から取り上げる。そして、上位種族の雷鳥様もお怒りだ。故に、雷鳥様が与えている”実りの雷撃”も無くなる。シルフ様の事は、ドリアード様からお願いする』
『風の精霊シルフも怒っていたわね。″風の便り”も無くなるから、そのつもりでいて』
告知された内容に、エサル王もブロファル宰相もログナージ王太子も真っ青になって固まった。王に至っては、王座から転がる様に降りて、ラレーヌとハンゾウ長老に跪いて謝っている。
ギルドマスター達は、自分たちの決断が招いた事態に、王に命を以って償うと言い出していた。
『愚か者を洗い出しなさい。我々は真実を知っている。だから、精霊に仇なした者が全員名乗るまで、加護は世界から消える』
「世界からって他の国も?!」
思わず聞き返してしまった。けど、返って来た答えは、想定外だった。
『精霊は感謝の無い人間のやりように、加護を与えていて良いのか疑問視する声も出て来ているの』
『人は与えられる事に慣れ過ぎて、それが稀な事で、精霊の慈悲や愛によって成されている事を忘れているのじゃ。』
「平民の作物には加護を与えてくれるはずじゃなかったの?」
ラレーヌとハンゾウは目を伏せて、首を横に振った。
『私達より上位の精霊が怒って、人間が悔い改めない限り加護は与えない事を取り決めてしまったの。精霊の時間の流れは人と違って、数時間で多くの事が決まってしまう事があるのよ。ただ、ヒマリとの約束は譲歩してくれた』
『今言ったことは、王族、貴族、ギルドに適用されるのじゃ』
この困った状態が世界中で起こっている?
ちょっと待って、一つ確認しておかないと。
「まさか、善良な王族や貴族やギルドの人まで、今説明してくれた事が起きてるの?精霊の力でそこはちゃんと回避しているの?」
『わからないわ』
『調べれば分かるじゃろうが、上位精霊の決定じゃからのぅ』
確認していないのに、二人に詰め寄っても可哀想だし、上位精霊がやっている事には口を挟めなさそうな雰囲気もある。
「ハンゾウ長老、今回の件、やっぱりに善人が苦しむ事の無いような措置はとられているのか、聞きたいのだけど、ダメかな?」
『聞くことは出来るが、それでは雷鳥様の怒りを、ヒマリ殿が買う事になるかもしれん』
「このままじゃ、良くない気がするのよ」
精霊は愛と慈悲で今まで加護をくれたと言った。感謝している人々が今回の件で見放されたと思い込み、今までの関係性が台無しになるのは避けたい。
自分がどうしてそんなことを考えるのかとか、何故そんなに首を突っ込んでしまうのかとか、そんな事より今を何とかしなくてはいけない気がしてしまう。
『小娘が何の根拠があって、我らの決め事に意を唱えるか』
『!!』
どこからともなく、謁見の間に響いた低い声は周囲を震撼させた。




