異世界への旅立ち
招待状にあった場所は、東京スカイツリーの展望台だった。しかも、営業時間を終了した23時に下の受付で招待状をチェックされた者だけが、展望台に上がって本当の受付をしてもらえるようだ。
普段、縁のない場所だったけれど、展望台から見える夜景は幻想的過ぎて、夢でも見ている気分になった。
「こちら、今日からの旅立ちですね。期間は無期限に等しいですが、お帰りになりたい時には最寄りの町にある冒険者ギルドに『日本に帰ります』と申し出てください。」
「はぁ‥‥冒険者ギルド?」
「はい。あちらでも説明がありますが、簡単に説明します。行と帰りが違いますので、必ず『日本に帰る』と申し出て下さい。他の国名を指定した場合は、戻った際に不法入国の扱いになります。言語は日本語で結構ですので。」
何を言われているのか、さっぱり分からない。
ここは黙って頷いている方が良いのだろうかと考えていたら、隣が騒がしくなった。
「行きと帰りが違うって、どういうことだよ?」
「はい。行は此処、東京スカイツリーであっても、帰りは鴨川シーワールドかも知れませんし、東京ディズニーランドかも知れません。近況では、夜の鳥羽水族館内に帰って来た報告もありますし、夜の旭山動物園に帰った報告もあります。」
「安全性をみたって、行ったところに帰ってくるのが普通だろ?」
そう言われましても‥‥と、受付嬢は困り果てている。
「‥‥さっき貴女が説明してくれた『行と帰りが違います』という現象ってこの事?」
「ええ、そうです」
「もしかして、異世界で移動するから、場所の接点が変わるという事かしら?」
「そうですね。それもありますが、向こうでの素行に由るものだと言われています。特に悪い犯罪などを犯したり、何某かの悪影響を異世界に及ぼした場合は、帰り先の保証ができませんし、命の保証もできません」
「ん―――。リスクにはリスク?やったことが自分に返ってくると?」
小さく頷いて、書類を用意する受付嬢。手際が良い。
私達の話し声が隣にも聞こえたのか、先ほどまで大声で話していた男性は静かになった。
「招待状をスキャンしたところ、貴女は『休む』事が目標になっていますね。あちらでは様々な休み方がありますので、貴女らしい過ごし方を見つけてみて下さい。」
そう言いながら、彼女は私に招待状を手渡してくれた。
「え?!消えた?」
「その招待状自体が、貴女を証明するパスポートです。確認は教会かギルドで行ってください。」
私は驚くのを止めた。初っ端から、いちいち驚いていられない。きっと、向こうは私の理解の範疇を越えているのだと結論付けた。
「説明、ありがとう。助かったわ」
「良いご旅行を!」
そう言われて、受付の脇にある防火扉を通った。