キメラの雷鳥さがし 121
「不思議ですか? でも、この街では当たり前の光景なんです」
「貴方は、案内をしてくれた‥‥これが当たり前の光景?」
私たちの後ろから話しかけて来たのは、先ほど案内をしてくれたお兄さんだった。
「この街は、北の森‥‥正確な位置で言うと西北の森とその奥にある広大な湖、そして、その奥にあるブラックマウンテンやレッドマウンテンがある山脈に続く山々。この街は山脈手前の山々にある鉱山で働く鉱山夫の家族が多いのです」
「鉱山夫であれば、日中の仕事だけの筈ですが?」
アルの指摘は、お兄さんを委縮させるものでは無かったけど、首を横に振って悲しそうな顔をした。
「私の小さかった頃はそうでした。ロンバン前公爵様が治められていた時は、自治権が他の貴族様に渡ってから、一日3交代制で休み無しで働かされています」
「え?!一日8時間労働がずっと?!」
驚いたら、これでも良くなったのだとお兄さんは力弱く微笑んだ。
「以前は一日12時間以上の労働で、月に1回の休みでした。頻繁に事故が起こり、4時間減らして3交代制の今の状態になりました。ここに居る子たちは鉱山夫の子、いわば人質です」
彼らが鉱山で働いている時に、このレストランの2階に集められ、逃げないようにするという。
「余所者が来訪した時に、こうやって今の実情を話していたのね?」
「こんな事を我々に話して、此処を治める貴族にバレはしないのか?」
確かにアレンの言う通りだ。
「貴方たちが来たのに、来訪のベルが鳴らなかったんです。だから、転移石か魔法での来訪者なのだと思いましたし、身なりも教会でもなく冒険者ふうだったので。
いつもは、ベルが鳴った後に余所者がレストランに来ない事が分かるまで、あの部屋に入れられます」
余所者が来た時にこのレストランの人質がそんな風に隠されているなんて、これは組織立ったブラックな雇用の酷い状態かもしれない。
「成程。アル、この地を治めている貴族は誰だか分かるか?」
「はい。大分類ではノランテツ侯爵領ですが、侯爵の外戚になる次男でトラン男爵が面だっての、統治者と言えましょう」
アレン曰く、ノランテツ侯爵領は西の領地だったのを、トリコリオンの街とノルウェーノの街をロンバン公爵領からもぎ取って領地としているらしい。
この2つの街は、昔から鉱山と湖の水産資源が豊富で、その2つを盗られたロンバン公爵領は、打撃は受けたが、山脈に宝石鉱山や魔道石などの鉱脈があったため、難を逃れたのだと言う。
「それにしても、ロンバン公爵にまた自治権が戻れば良いのに‥‥彼は領民にこんな事をさせないわ」
「それは、今は無理なんだ、ヒマリ」
とても悲しそうな顔で無理だと言うアレン。アルも視線を逸らしている。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




