キメラの雷鳥さがし 110
「な、なんでさ、私が賭けたとしても、ヒマリごと相手の手に渡るなんて‥‥」
「賭博のような場所は、賭けた物が誰のものであったとしても、制約で行使できる事を知っておけ。その拘束性は魔法行使に寄るから、下手したらヒマリが奴隷落ちになる所だった」
ルートの言わんとしたことは、冒険者なら魔法だけではなく、酒場やそういった界隈で起こるトラブルの要素を把握しておくのも必要だったと、ファルの不勉強をやんわり口調でザックリと指摘した。
かなりショックを受けているけど、ファルにはちゃんと言っておかないといけない。
「私は真面目過ぎるのかもしれない。でも、嫌なことを自分の信念を曲げてまでやる必要は無いと思うの。だって、ここには休暇で来た筈なのに、一番心を抉られる事をしなきゃいけないの? 私は人も精霊も裏切りたくないの」
休暇に来たのに、心労が増えていくなんて本末転倒だ。
そして、私は2人にもう一度向き直って伝えた。
「2度と私と精霊を賭けの対象にしないで。それと、これからの作戦で、私の能力を他の人の能力のように見せる扱いはさせないから。勘違いで奴隷落ちなんて死んでも嫌だし」
言いながら怒りが沸々と湧き上がって来て、深呼吸しながらイラつきを抑えようとした。訳の分からない悔しさが込み上げて、泣きたい気分になってしまう。
「怒りでも何でも、自分が感じた危機感をよく口にした。ヒマリは、よく頑張った」
ルートの手が頭をポンポンとしながら、優しく抱きしめてくれているのが分かる。
涙がツーッと頬を伝った。私は怖くて悔しかったんだと。
「勘違いであったとしても、私と精霊の人生を勝手に決められる怖さが嫌だった‥‥」
「ああ。分かった、」
「怖かった‥‥」
「怖い思いをさせて、すまない」
私は大きな声を上げて泣いてしまった。
此処が敵の拠点かもしれないとか、いろいろ考慮しなくちゃいけない場所にも関わらず、ルートは優しく抱きしめて泣き止むまで待ってくれた。
「ごめん、ヒマリ、私は‥‥ごめん」
ファルは謝ってくれたけど、許す許さないというより、この世界でも職業や知識によって精霊にたいする考えの相違がある事を知った出来事だった。
どんな人にも物事の受け取り方が違う。
だからこそ、パーティを組んでいる仲間との相違点を把握して、間違った方向に向かったら、即座に訂正をしていかないと、小さな差異が大きな違和感になってしまうのだと思えた。
「2人とも落ち着いたな。証拠となるような物が無いか調べよう」
そう言われるまで、ラレーヌに任せっきりだった事を思い出して、慌てて彼女を見たら、笑顔で手を振っている。
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