ギルドの悪いヤツって 1
「ヒマリは最強だね。ドリアードとルートとギルマスのクロノを叱りつけて、話をまとめ上げた」
「止めて、ファル。自己嫌悪に陥りそう」
さっきからチクリチクリと言ってくるファルの突っ込みに胃が痛くなりかけた頃、ルートが食事を食べに行こうと言い出した。
こんな胃の痛くなる思いをする羽目になったのは、かれこれ2、3時間前に遡る。
「すまん、遅くなった。俺がギルドマスターのクロノだ。ルート、話の概要はエルリッタから聞いたが、ギルドは国の暴走トレント狩りに関しては、容認してはいないぞ?」
「それは、エルリッタに聞けばいい。ギルド内の事は自分たちで処理してくれ」
素っ気なく、面倒事だと突っぱねるルートは、本当に何処にも属さない強さがある。S級冒険者は1人で国としての発言権が許されるくらいなのだと、ホミバードのハンゾウ長老が教えてくれた。
確か、少し前までルートも、ギルドがそんな横暴を許すはずもないとか言っていなかったっけ?
今の態度だと、そうじゃなかったから怒っている感じに受け取れる。
「誰の判断で俺の許可無しで通した?」
「‥‥」
「ガジェアか?ギルドマスターの権限にまで手を出すとは。そしてお前は容認したか‥‥」
余程、手痛かったのか、クロノさんは拳を握りしめたままテーブルに打ち付けた。傍に居るエルリッタさんとシェリーナさんがビクリと身体を震わせた。
「ヒマリと言ったか、嬢ちゃん巻き込んですまなかったな」
「いえ、私も話を聞きなさいなんて生意気な口調で言ってしまいましたから」
「この件は、国の内部事情が絡んでいてなぁ、エサル王には話を通しておく。精霊ドリアードの加護が無いと人間の暮らしはままならんから、何処かで折り合いを見つけなくてはならんが」
変な言い方をする人だと思った。
「折り合い?まるで、ドリアードが人間を脅しているような口ぶりに聞こえますが?」
「お嬢ちゃん、悪いが国にも事情ってもんがあんだよ。精霊様のご気分で加護を与えたり取り上げられたりするのは、支配者側も困るってことだ」
「ルート、ファル、私この国から出て行きます」
「おいっ!ヒマリ?!」
「ちょ‥‥それは、もう少し待ってくれないかな?」
「目の前の粗暴なギルドマスターは、自分が担ってもいないくせに国の後継者争いにしか興味が無い。その上、愚かにも精霊の力を手にしようとしたおバカな第二王子の肩を持っているのよ?
国の要請に許可を出したのは、昼の副ギルマスのガジュアとギルマスのクロノなんだから」
私はこんなに感情的だっただろうか?それに、変な情報がチラホラと‥‥
「お嬢ちゃん、勘違いしないでくれ、大人しく俺たちの話を聞いていれば‥‥」
そう言いながら、クロノさんが何か四角い物を私に投げつけた。ルートが私の手を引っ張ったけど、白と黒の面が頭上で広がって飲み込もうとする。これは、あの魔術師たちを閉じ込めた牢屋のような箱だ!
閉じ込められると思った瞬間、ザシュっと空を切るような音がして、ゴロッと何かが転がった。
「ウガッァァ――!」
腕が切り落とされて床に転がる音だと理解した瞬間、悲鳴にならない叫び声が自分から飛び出ていた。
私の傍でサイゾウが、暗殺者の様な冷たい顔をしている。どうやって攻撃したとか、そんなことはどうでも良いと思った。サイゾウの嘴が血塗られている状態を見たら一発で分かるから。
「クロノ、お前は何故ヒマリを狙う?!俺たちは国を揺るがすほどの大事だと言っているだろ!」
「国は今、王太子のログナールと第二王子のグロットが後継者争いの真っ只中だ‥‥ギルドとしては保守的なログナール王子よりも、改革派のグロッド王子の方がやりやすいからな。嬢ちゃんの鑑定眼は希少な上位のものだ、わかるだろ?」
「そんな勝手な理屈が通るわけねーだろ!」




