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社畜はスローライフの仕方がわからない  作者: 真白 歩宙


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ドリアードの願うこと

『対価も無しに、あのホミバードと名付け契約をしただけじゃなく、サクランボの精霊まで信頼する人間がいるなんて、ここ数百年は無い珍事(ちんじ)ね』

「え?!ど、何処?!って、ああ!」


 真後ろから綺麗な声が聞こえて、振り返ったけど誰も居ない状態に尻餅をついてしまった。


『ふふっ、そういうのを粗忽(そこつ)って言うのよ』

「あのぅ、何処にいらっしゃいます?」

『でも、貴女の雰囲気は悪くないわ。だから、会ってあげる』


 目の前のサクランボの木が綺麗な女性に変貌し、木と蔦をあしらった美しいドレスを着た人が現れた。言われるまでも無く、その女性がドリアードだという事が分かった。

 なぜなら、森全体の木々が一斉に畏まるというか頭を下げた気がしたから。その神々しい雰囲気に気圧された訳ではなかったけど、人が遭遇するには普通ではないくらいに神気のような清々しい気配が辺りに広がっていた。


「ドリアードか、無事で良かった。」

『S級冒険者のルートとファルね。知っているわ、あなた達はいつも精霊を守ってくれる』

「実は今回の件、魔術師が錯乱魔法をかけたのが原因だ。俺たちは今晩、そいつを捕まえる」


 鈴を転がしたような声でクスクスと笑うドリアードは、悲しそうにトレントを見た。


『無理よ、直ぐ釈放される。この国の王子は、トレントを材料としてしか見ていない。だから、暴走させておいて、暴走した精霊も魔物も駆逐すると豪語している。ホミバードもそう、増え過ぎたから狩るのだと。』


 まるで見て来た様に、蔓が扮した人間達が言葉を発するような仕草をとっている。演劇を見ているようだ。


「なぜ、そんなに詳しい?」

『私はドリアード。植物を介して人が不穏な動きを発見することも可能よ?』


 人の心は移ろい易いのだと、(なげ)く仕草をしていても、人に対して一つも期待していない事が伝わってきた。そんなドリアードを見て、視る気持ちは無かったのにやってしまった。


――――――――――――――――――――――――――――

ドリアード

個体:「    」

種族:太古の精霊樹でサクランボの木に擬態中

属性:種の恩恵・緑の恩恵・大地の祝福・植物の女王・

植物の伝手による情報網羅

相乗効果:

仲間になると属性を付与できる個体もいる

悩み事:

人間を見放し、あらゆる加護を無効にするかを迷っている

――――――――――――――――――――――――――――


 ドリアードはあまり怒っていない様に見えたとしても、表面上の()()をそのまま受け取ってはいけないと二人から教わった。

 そしてそれは、今垣間見た彼女のステータスにも表れている。

 太古とはどれぐらいの時を言うのだろう?人の一生なんて短くて、そんなものでは推し量れない。人が人として精霊や神に対し、感謝の気持ちを忘れた時からだとしても、この国の一部の人間はドリアード達に、感謝とはかけ離れている視線や思いをぶつけて来たのだとしたら‥‥それは恐ろしい事だと思った。


「ドリアード、加護を打ち切るのか?」

『そうね。私はドリアードよ?私の加護が要らないから、あんな馬鹿な真似が出来るのよ』

「全ての植物からそっぽ向かれたら、人間なんて生きていけないよ?ドリアード、君が懲らしめたいのは王族と貴族だとしたら、そのやり方じゃ弱い国民だけが困窮して自滅する。王族も貴族ももしかしたら、事の真相を知る前に国民が死に絶えるよ。」

『なら、王族と貴族が困る様にしたいわ』


 笑顔なのに人の生き死について話し合っている、というか、交渉っていうのかな。少し怖く思えた。それだけ、目の前のドリアードには力があるのだと思えたから。


「嗜好品の煙草やワインとか果実。それと、貴族が良く口にする高級品とか、家具の材料とか一番はトレント材だね。出来れば、国民が食べる小麦や粟とか芋は普通に食べられるようにしておいて欲しいんだ」

『そう‥‥王や貴族をのさばらせておくような国民にも問題はあると思うけど、仕方ないわね』


 貴族が食べる贅沢品と聞いて、一抹の不安が過った。だからつい、言ってしまった。


「貴族が食べるからといって、他の生き物の命を摘み取るような事はしないであげて」

『畜産のことを言っているのね。そうね、他の生き物から恨まれるのは嫌だわ』

「貴族に関しては、直営している農園の加護が無くせば良いだろうが、農民にしわ寄せが来ない様にしないとな」

『人間って責任転嫁するものね。農民が罰を受けない様に、私が怒って加護を無くしたとギルドに報告して。それと、トレントの森も無くした方が良いわね』


 さらりと恐ろしい事を言ってのけるドリアードは、当然のように提案している。


「サクランボの精霊やリンゴの木のトレントは、消えちゃうの?死なないよね?私はドリアードさん自体の心も体も傷つかないようにやって欲しい」

『あなたって、ううん、だからなのね』


 ここは言質を取っておきたい。呆れた感じで見られたと思ったら、いきなり笑い出してルートさん達に何か言っている。


「ヒマリ、ドリアードがお前に名付けを求めている」

「え?名付け?」

「ヒマリ、ホミバードと同じだよ」


 名付け契約のこと?!


『二人はまだ駄目だけど、ヒマリ、貴女となら契約できそうだわ』


 よろしくねなんて言われても、どんな名前を付けたら良いのか分からない。それに、王族や貴族に報復しちゃおうなんて考えているドリアードと契約しても良いのだろうか?

 それでも、彼女は理不尽を怒っているのだから、敵認識された側はちゃんと理解させた方が良いのかもしれないと、名前を考える事にした。


『この子、私のこと危ないヤツって思ってるわね、きっと』

「なのに、名付け許してるドリアードも変わってる」


 何か言われている気がするけど、今は名付けだと、彼女を連想させる言葉を考えてみた。フランス語でレーヌは女王と言う意味だけど、ラ・レーヌとラをつける呼び方が好きだった。ならばと、そのまま続けて名前で表してみると、綺麗な音になった。


「ラレーヌ、外国の言葉で女王という意味なんだけど‥‥」

『女王?私から連想したの?ふふ、素敵な名前ね!これからよろしく、ヒマリ』


――――――――――――――――――――――――――――

ドリアード

個体:ラレーヌ

種族:太古の精霊樹でサクランボの木に擬態中

属性:種の恩恵・緑の恩恵・大地の祝福・植物の女王・

植物の伝手による情報網羅

相乗効果:

仲間になると属性を付与できる個体もいる

決定事項:

悪い人間から加護を取り上げて懲らしめる

――――――――――――――――――――――――――――


 ドリアードが承諾した瞬間、ステータス画面が現れて決定事項に物凄い事が書かれていた気がしたが、見ていないことにした。

 日々に感謝して生きて行こうと、私は心に誓った。


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