キメラの雷鳥さがし 75
「塔のある居住区は聖女の居住区です。その地下なら‥‥まさか!」
教皇様は驚きに目を見開き、ワナワナと震えて涙がこぼれ落ちている。
『息は無かった』
「コタロウ、それ、何時‥‥」
いつの話なのかと聞きたかったけど、それ以上は言葉に出しても、いたずらに教皇様を傷つけてしまいそうで怖かった。
それに、コタロウはちゃんと自分の仕事をしていたし、”奥の塔がある居住区の地下の宮殿に寝かされていた”という表見から、安置されているのだとしたら違和感は感じないと思った。
それが分かっているからこそ、そのことを何故教えてくれなかったのかと言うのは憚られる。
諜報のプロを仕切っていたのは私だ。ここへ来た時、ルートやファルが居るのに、過剰に怯えて守られるだけだった自分の不甲斐無さが口惜しい。
「コタロウ殿、筆頭の聖女は安置されていたのですか?」
『安置か、その言葉が妥当だと思う。死後も聖女の力は消えずに結界のようなモノを感じた』
「そうなのですね。彼女は今も地下で結界を張っているのですね」
悲しむ教皇様を横目に、コタロウが私の耳元で囁いた。
『真相を知りたのなら、ヒマリ様が聖女を鑑定すればハッキリすると思います』
「それを行うだけの、何かを感じ取ったのね?」
『涙の痕があったのです』
小さく頷いて、その理由を述べたコタロウは、早く報告していれば良かったのだと懺悔するように俯いた。
安置されている人が、本来、生きていなければならない人物であったことに気付けなかったと悔いている。
いくら諜報のプロでも、全てを瞬時に理解できるわけもない。情報不足ではまともな判断が出来ないのは当たり前なのだから。
だからこそ、しっかりとした判断ができる様に情報を得なければならないのだから。
ミヤが教皇様を支えて、近くのソファーに座らせているけど、今からやろうとしている事を話したら困らせてしまうかもしれない。
「教皇様、ミヤ、1つ確認したい事ができました。冒涜かもしれないけど、筆頭聖女を鑑定させて頂けませんか?」
「!!」
「涙の痕があったそうです。亡くなった方の鑑定が出来るのか分かりません。でも、このままではいけない気がするの」
「止めはしません。私も知りたいからです。でも、今の貴女は浄化が終わってない状態では危険です」
自分も見届けると、立ち会う事を決心した教皇様。ただ、私にかけられた呪いを解呪しないと先に進めないと、止められてしまった。
「実は、さっき自分を鑑定したのですが、”状態異常:呪いの杭の余波で、衝動的な死への誘い状態が、浴室での沐浴によって、浄化がすすんだ"と表示されました」
「なるほど、では今回の浴室での沐浴は濃度が濃くなって、ヒマリ嬢には有効な手段だったのですね。わかりました、夕食後にもう一度沐浴を行って、どのくらい良くなるのかで、解呪の日を割り出しましょう。筆頭聖女の鑑定はそれからです」
「わかりました」
悲しむより、今もなお結界を張っている筆頭聖女のためにも、今やるべきことをやっておくのだと、教皇様もミヤも私も、力強く頷いた。
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