キメラの雷鳥さがし 73
「無事に来れて良かったです。食事も今運ばれたばかりで温かいですよ」
教皇様の発した”無事”という言葉が、妙にいろいろな部分を指している様に感じて、顏が引き攣ってしまった。
「何かあったのですね?」
「用意周到な事に、”罠”が張ってあったよ。しかも隠ぺいされていたから、危うく引っかかるところだった。サイゾウが上手く対応してくれたから大丈夫だったけどね。彼は優秀なホミバードだわ」
『いや、ミヤ殿の反応が素晴らしかったから対応できた』
どっちも凄い事には変わりないと思う。寧ろ、ここで一番平凡なのは私じゃないだろうか。
「さあ、食べて少し落ち着きましょう」
食事をしながら考えを纏めていると、気付かなければ幸せだったかもしれないくらい重大な事に気が付いた。
「どうしました、ヒマリ?」
「今の状況って、私が来なければ教皇様もミヤも巻き込まれなかったですよね?」
そう、私が来なければ、居城にいるであろう犯人を刺激しなかった筈だ。
「それは違います。寧ろ幸いでした。今回の事件、マフシロン大司教が嵌められていることから、前々から虎視眈々と彼を追い落とす意思が見えますから」
「そうよ、ヒマリ。あんな追跡魔法をかける相手に対しての罠なんて、一朝一夕で出来る魔道具じゃないから、前々から準備していたってこと」
「ヒマリが来ていろいろ起こったのは、要因が揃っただけで、私が一人の時に起こっていたらと、考えただけでも肝を冷やしますよ。こちらも、貴女たちが居て良かった」
実質的にも精神的にも助かりましたと言われて、ホッとしてしまう自分がいる。
「結局、敵は何が目的なのでしょうか?」
「大司教を嵌めて、誰が得をするか考えてみても仕方ありませんよね、このグランラードでは」
教皇様の説明では、同僚の大司教を蹴落としても、枢機卿になれるわけでも無く、実験を握れるような権力者になれるわけでも無いという。
「枢機卿は、歴代教皇様の直系で力の引継ぎが行われなかった家は、その地位を剥奪されます」
「枢機卿って、いわば中継ぎなのよ。次なる教皇が現れるまでのね。教皇は神から愛された強大な力と正義の意志を持って生まれてくるから、懐柔も出来ないし隠ぺいして実権を握るなんて事もできないの」
「じゃあ、見方を変えて、教皇様が在籍中に権力機関を掌握なんてこと出来るの?」
はぁ?と素っ頓狂な声を上げるミヤに、教皇様が全てを担っている訳じゃないにしても、最高権力者が不在とか、指揮をとれない状況になるとか、もしくは、代行者を立てる事で実権乗っ取りが可能になるかを聞いてみた。
「権力機関の掌握、実現できないと言えないところが悲しいですが」
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