私に名付けセンスはもとめないで
ホミバードの名前付けは大変です。
まさか、ここに集まったホミバード全部に名前を付けろと長老は言っているのだろうか?
「ルートさん、ここに居るホミバード全部に名前付けるのですか?」
「さっきも言ったが、ホミバードは通常2~3家族で群れを成して生活している。長老と呼ばれる個体は、その3家族1つの群れが複数集った時に現れる。ここには3つの群れが存在するからな」
『今は子供が卵ですので、親鳥だけ。1つの群れが6羽ですので18羽と私を含めて19羽です』
たしか卵は2~3個だった9組の親‥‥18~27羽の雛が孵ることになる。聞いたら、卵にも縁が結ばれているので、親子二代にわたって私に仕えると決めているようだ。
『名付けは契約。我々との大切な縁を結ぶ尊い行い』
「長老さま、少し時間くれます?私の名付けって壊滅的にセンスないんです。だから、いろいろ調べて付けたいから」
ホミバードはこの申し出を快諾してくれた。そして、どんな名付けでも、有り難く頂戴するとも。
「最早、仕事の領域だな」
「だって、仕方ないじゃないですか!自分の子に変な名前付けられたら、ルートさんだって嫌でしょ?」
確かにと、頷くだけ頷いて歩き出してしまう。
「おや、ルートとヒマリじゃないですか?丁度良いところに」
「ファルさん!」
「ファル、何かあったのか?」
ルートさんの声が少し低くなった気がしたけれど、ファルさんが夕食を一緒に食べませんかと提案してきた。
「これから屋台で幾つか見繕って買いますので、良ければどうですか?」
「ヒマリはどうしたい?」
「私がご一緒しても良いなら、喜んで!」
「なら決まりだな、俺達も飲み物や好きな物を買おう」
3人で食べるには、物凄く量が多くなってしまった気もするけど、何か忘れている気がする。ファルさんの店に戻ってから品物をお皿に出して机に並べると、ぽつりとルートさんが言った。
「今日は昼も食えないくらい、ホミバードの件で忙しかったからな。昼食分のパンもある」
「あ、お昼!そう、お昼食べて無かった‥‥」
「今思い出してるよ、ヒマリはそういう耐性どうにかした方が良いよ?」
返す言葉も無い。手元のエールを飲みながら、ルートさんが今日遭遇した出来事をファルさんに話し始めた。今思い出しても、物凄い経験をしたと思う。
「だから名前を決めるのを待ってもらっているの、何か良い案は無い?」
聞いてる側から笑い始めたファルさん。結局休めていないと、指摘されてしまった。
「まぁ、今回だけは仕方が無いんじゃないか?ホミバードの願いを袖にはできないだろ」
「そうだけどさ、なんか、これから話す話がもう休めないの決定じゃん!」
私達の話を聞いたファルさんは頭を抱え込んで、困ったと唸っている。
実は、私達が屋台のおばさんから聞いた『トレントの森』に関する話を、冒険者ギルドから頼まれているのだという。
「トレントの暴走事件なんだが、解決できなきゃ国がトレントを間引きすると言い出している。」
「それは不味いだろ、トレントをこの地に恩恵を施したのはドリアードだ。しかも、この地のトレントは一体一体が様々な恩恵を宿した精霊級だぞ?」
「そこで、お前だよルート。S級冒険者は国家と同じくらいの権限を持つ。君と私の二人で反論したら2対1だ」
ん?今の言い方だと、道具屋を営んでいるファルさんもルートさんと同じS級冒険者?
ルートさんは、難しそうな顔をして考え込んでいる。
「そもそも、何で暴走なんてしたんだ?」
「そこ、気になるよね。一応、調べたら暴走前に魔導士が森に入ったらしい」
「まさか、トレント相手に錯乱魔法か?」
「暴走魔法もあるよね?」
トレントにそんなことをしても、なんの得にもならないとルートさんは頭を捻っている。ファルさんも、国がトレントを害すれば、ドリアードの怒りに触れて収穫量が減ってしまうと言う。
「ルートさん、二人の今の言い方だとトレントを素材にすることは無いのね?」
「そうでもないな」
「実はギルド主催で年に2回だけ、トレントが切って欲しい枝を下げたのを剪定させてもらっているんだ」
え?トレント材を欲しい人がいる?
私の考える先を読み取ったのか、二人の顔つきが真剣な表情になった。
「国を揺るがしても欲しいトレント材、本命はドリアードの精霊樹本体か!」
「それだけじゃないよ、おそらくホミバードの隠密や隠ぺいスキルも狙われたんだね」
「二人共、誰がそんな国民の為にもならない、不利益な事をしたの?」
「それが分かれば苦労はいらないよ、ヒマリ」
「ねぇ、それなら調べられるんじゃない?私の完全鑑定眼で」
「‥‥それは良いけど、ヒマリが狙われたら大変でしょ?」
人は欲しい時にだけ、貪る強欲な生き物だとファルさんが皮肉たっぷりに言った。
「ホミバードやトレントやドリアードは守れないの?」
「彼らは自由意志を持っているからね。契約しないとその地から離れられない‥‥!!」
「それだ!ヒマリ、ホミバードに早く名付けしろ!先ずは、ホミバードの安全からだ」
うぇぇ?
いきなり話を振られて、私はアタフタとしてしまった。
「だから、初めから名付けを手伝ってって、言ってるのに!」
「飲んでる場合じゃないな、今夜は名付けが終わったら寝ることにする」
それ決定事項ですかと聞きたくなってしまうけど、ホミバードに危機が迫っているならルートさんの言葉は正しいし、早く安全圏にホミバードを入れないといけない。
「名付けはさ、何を連想するか?じゃないかな」
確かに。隠密や隠ぺいスキルから連想されるのは『忍者』だ。私は歴史の名だたる忍者の名を上げて行った。女の子の名前は歴史上のお姫様にしてみた。
「長老がハンゾウ。娘さんがノウヒメ。その旦那さんがコタロウ。そのグループのサイゾウとオイチ。サスケとチャチャ。そして‥‥」
「それ、何の名前なの?」
「日本の忍者という隠密や隠ぺい、諜報といった影に属する忍びって人たちの名前」
『今の名前で、全員承知した。ヒマリに我らの全てを託そう。』
見えない空間から、声がしてホミバードの長老が姿を現した。
「やっぱり、ホミバードの長老‥‥ハンゾウさんだっけ、隠ぺいが凄いね。じゃぁ、今のでホミバードはヒマリの傘下になったわけだ」
「後はトレントか‥‥ヒマリ、明日森にいくぞ」
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ホワイトミニバード
個体:ハンゾウ長老
種族:七色光鳥の亜種
属性:認識阻害・隠密・隠ぺい
相乗効果:
仲間になると属性を付与できる個体もいる
名付けによって、忍術スキルも取得
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お酒でフラフラする視界に入って来た情報に、不可解なスキルが付与されている事に気が付いたのは、数日後のことだった。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




