まざった卵
いつの間にか、長老の周りに集合したホミバードが此方を見ていた。
「何か良い案ありますかね、ルートさん」
「それはお手上げだ。大体、卵なんて喋りもしないし固有判定がいつからつくのかもわからん」
「何か親子のデンシンとかは?」
「それも試したが駄目だった。もう2日目になる。卵の命が尽きる前に母親の魔力を注がないと!今は父親達が温めているが‥‥」
本来は巣で卵を温める事に専念しているホミバードのメスは、トレントの襲撃ですっかり気が動転してしまい、魔力供給が出来なくなってしまったらしい。
ショックの元は混ざった卵でもあり、トレント襲撃の際に卵を奪おうとした冒険者への不信感も増幅しているという。
「私はルートさんと一緒にいるけど?ホミバードさんは大丈夫なの?」
そう聞いてみたら、長老は高らかに笑ってルートは英雄なのだと教えてくれた。
「長老、私にその卵を見せてくれる?」
「その依頼、引き受けるのか?」
今まで黙っていたルートさんが聞いて来た。受ければ、仕事になるという。
「ホミバードさん達をこのままにしたら卵はどうなるの?」
「まぁ、嫌な結末にはなるな」
「ルートが私のコンダクターでしょ?なら、英雄をコンダクターに持つ私もそうでありたい!」
困っているホミバードを無視する事なんて出来ないのだと伝えた。
「分かった。だが、この道は結構険しいぞ、しかも恨まれる覚悟すら必要だ」
「意味は分からないけど、覚悟を決めないといけないのは分かるわ」
私達はホミバードの後にくっついて公園隣の林に入った。木々と光が差し込む緑と光彩の楽園のような林が、奥に行けば行くほど、木は薙ぎ倒され圧し折られて荒れ果てている。
『長老!!!』
木々が倒れた場所から少し離れた奥の公園側の方に、ホミバード達が集まっている場所があった。卵の上に乗っかって器用に温めているホミバード。
よく見れば、尾羽が七色になっているので、オスだとわかる。
『長老、地面の上では温まる事がままなりません』
『助っ人を呼んできた』
「長老さん、卵はこれで全てなのですか?」
『ふむ。そうじゃ』
そう聞いてから、私に集まった視線が何となく怪訝な感じだったので、名乗っていない事を思い出した。
「ルートさんにコンダクターしてもらっている、ヒマリと申します。異世界の日本から来ました」
よろしくお願いしますと、深くお辞儀をして挨拶をした。
そして、卵を視ようとした時に、目の前にホミバードが舞い降りた。
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ホワイトミニバード
個体:長老の娘
種族:七色光鳥の亜種
属性:認識阻害・隠密
相乗効果:
仲間になると属性を付与できる個体もいる
悩み事:
自分の卵が分からなくなっている
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『あなたたち人間には近づいて欲しくないの!出て行って!』
いきなり髪の毛を突かれ『出て行け』と言われて驚いていると、ルートさんが何かを言った瞬間に襲ってきたホミバードが地面に落ちてしまった。
「と‥‥ルートさん、ホミバードさんは‥‥?」
「どんな些細なものであれ、攻撃には変わりないから動けなくした」
「長老の娘さん、ごめんね、落ちたら痛いのに‥‥」
ピクピクとしているホミバードを拾い上げ、昨日買ったタオルで包んだ。意識はあるのか、鋭かった目つきが少しだけ穏やかになった気がした。足元で長老が謝っている。
「ヒマリ、お前‥‥個体の区別がつくのか?」
「いいえ、この子だけは、長老さんが長老と名乗りを上げてくれたから、長老とこの子だけは区別がついてるかな」
「見渡してみろ、そのホミバードの旦那も居る筈だし、卵も見分けがつくかもしれん」
「なるほど!ルートさん頭良い!」
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ホワイトミニバード
個体:長老の娘の旦那
種族:七色光鳥の亜種
属性:認識阻害・隠密
相乗効果:
仲間になると属性を付与できる個体もいる
悩み事:
今温めている卵が自分たちの卵なのか疑っていることに
心を痛めている
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「ルートさん、このホミバードさんが旦那さんだよ!」
ルートさんは指をパチンと鳴らして、長老の娘さんの拘束を解いた。自由になった娘さんは、私の頬にスリスリと頬を寄せてから旦那さんの隣に降りた。
「そのまま、卵も見てやれ」
ホミバードのオスが温めている卵を横から覗くと、コマンドが見え始めた。その中に2個だけ表示があった。
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ホワイトミニバード
個体:長老の娘とその旦那の卵
種族:七色光鳥の亜種
属性:認識阻害・隠密
相乗効果:
仲間になると属性を付与できる個体もいる
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「あった!この卵とこっちの卵だよ、ルートさん」
教えた卵を私のタオルに乗せていくルートさん。違った卵を温めていたホミバードが少しがっかりしながらも、仲間の卵を守れたと誇らしくしている。
「良かったね、これがあなた達の卵だよ」
そう言って渡すと、何となく泣いて喜んでいるような感じだ。
『ありがとうございます。私があんな事をしたのに‥‥』
「卵は2つで良かったんだよね?」
『はい!』
『ヒマリ殿、どうか他の者の卵も見分けてくれませんか』
長老さんのお願いは聞いてあげたいけれど、認識できる固有名詞が無いのでこれ以上の仕分けが出来ない。そのことをルートさんに伝えると、彼はこともなげに解決してしまった。
「長老、ヒマリは固有名詞、名前が無いと区別できない。メスだけか全員に名前をつけろ」
『名付けは契約、できませんのじゃ』
「仮の名はどうだ?」
『それならば、おそらくは』
ルートさんはホミバードのメス達に何かを渡している。途端に、私のコマンドに個体名が現れ始めた!
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ホワイトミニバード
個体:スプーンを持ったホミバード
種族:七色光鳥の亜種
属性:認識阻害・隠密
相乗効果:
仲間になると属性を付与できる個体もいる
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ホワイトミニバード
個体:スプーンを持ったホミバードの卵
種族:七色光鳥の亜種
属性:認識阻害・隠密
相乗効果:
仲間になると属性を付与できる個体もいる
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「ルートさん、あっち!」
私はルートさんが渡した物で仮名付けされたホミバードと卵を合わせるように、走りながら卵を拾ってはタオルに包んだ卵を渡した。
「ハズレの無い神経衰弱のような感じね」
「何だ、そのしんけーすいじゃっくって?」
じゃっくじゃないのだけど、ここは内容を話すところだと思ってトランプの事を話した。興味津々で聞き入っているルートさんに、長老が深々とお辞儀をしている。
「俺じゃない、これは見分けたヒマリの功績だ」
『たしかに。ならば、我々と契約を結びませんか、ヒマリ殿』
「契約?」
長老に言われて、契約というものをしたけれど、それが卵を見つけるより大変な作業だった。




