社畜に科せられた休日
社畜にスローライフが出来るのか?
予想できない異世界での生活は?
陸海土壌研究所に勤める私、東峰 灯鞠は、社内メールの通達を見て悲鳴を上げそうになった。
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関係者各位
この度、当研究所の職員が過労で倒れ、お亡くなりになりました。
逸材を失った悲しみに追悼と、当研究所の勤務管理の不備を反省し
ております。
又、規定残業を越える社員の皆様に対し、業務改革を行うよう
国と労働基準局から通達がありました。
このメールが届いた社員の皆様につきましては、上司と相談の上、
しっかりとした休暇と過密した業務内容の見直しをお願いします。
尚、このメール以後に改善が見られない社員や部署関係者には、
勝手ながら、国が推奨する『国営異世界旅行』に出てもらい、
心の改善を図って頂きます。
以上、総務部
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「何これ?怖い、怖いよ!『国営異世界旅行』って何のゲームよ?」
メールの内容があまりにも飛躍していたため、理解できないと頭を抱え込んだ。悪戯メールなのかと思いきや、アドレスを確認すれば総務部部長の社内アドレスで公式のものだった。
「東峰、お前知らなかったの?研究馬鹿だしなぁ‥‥」
世情に疎い部下を、可哀想な目で見る上代 桔平。彼は私の上司であり、陸海土壌研究所の所長上代 壮時の次男だった。
「3年前に異世界との和平交渉が国連で可決されて、各国に開いたゲートから行き来できるようになったじゃないか」
「そんなメルヘンな世界観になっているなんて、気が付きませんでした」
「やっぱりな、東峰はもう、その異世界に触れてるぞ?」
「え?」
思考が停止している私に、研究材料の草花を指してニッコリ笑う。
そもそも、陸海土壌研究所の仕事は、地球上の土壌や草花の調査や成分分析だ。中でも私が所属する部署は、調査した結果から効能や薬効があるものを調べる部署。
上代課長が指し示す薬草は、ここ数年の間の研究課題だった物。その材料が政府からの依頼で行われていたけど、異世界から持ち込んだ物だったとは。
だから、レベル4扱いで在来種を失う事の無いように、厳密な隔離地区での研究だったのかと理解した。
実際、アマゾン奥地で生息していた苔から、抗生物質の元となる菌を見つけたのは、この研究所の所長上代 壮時博士だ。
その実績があるからこそ、この研究所に異世界の草花を調査させたのだと思った。
「研究所にあんな業務指導するようなことして、メールまで送らせたのに、過密スケジュールにさせたのは政府ってことじゃないですか!」
「そう。それで、研究員が過労死した。俺の親父は元々が教授だからね、運営とかには向かない」
「うっわ、ブラック企業並みの現状で、そう言っちゃいます?」
「だから、研究大好き社畜牧場と化した、この研究所の体制を変えるべく政府が躍起になって改革しようと目論んでいるわけ。その白羽の矢が東峰に当った」
どうして私に白羽の矢が当たったのか?
上代課長を見れば、再び材料を指示している。
「成程。現地入りして研究してこいと」
「半分当りで、半分違う。これが統計だ」
一回社畜化した体と思考は、中々緩まない。
価値観や生活環境などのベクトルが全身全霊で『⇒社畜』となっているからだと結論付けられ、環境を変えるために強制的に異世界で過ごす案が実践されたと説明してくれた。
『国営異世界旅行』を行ったその後の統計が、どれも良好な数値だったようで、現地の物を調査している研究員にも当てはまると仮定されたらしい。
「私、休める気がしないんですけど‥‥」
「だよな。研究対象が目の前にあったら、研究しちゃうのが性ってもんだ。」
「それ分かっていて、何で研究所は政府の安易な案に乗ったんです?」
「まぁ、現地ではコンダクターがいるらしいから、楽しんで来いよ。招待状、渡しておくぞ」
一抹の不安を抱えながら、私は招待状に書かれた時間指定された場所に向かった。
読んで下さって、ありがとうございます。
少しずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。