6 心の傷
叫び声を聞いたリオンは、急いで部屋の中に駆け込んだ。
視界にレアとリアムを捉えると、その近くには床に倒れているルイーズがいた。
驚いたリオンは、すぐさま駆け寄りルイーズを抱きしめた。
「何があった!?」
リオンがレアとリアムに問うも、床に膝を突き、困惑した表情の二人は首を横に振るだけで、何も答えない。
「リオン、床にぬいぐるみが落ちている。多分、それが原因だろう。とにかく今は、ルイーズ嬢を横にしてやったほうがいい。俺は、急いで医者を連れてくる」
ブライスはリオンに告げると走って部屋を出て行った。
リオンはルイーズを横抱きにすると優しく抱えた。レアとリアムにはぬいぐるみには触れないように伝えると、急ぎ足で廊下に出た。
その頃、エマとエリーは自分たちにも手伝えることはないかと、リリーの部屋に向かって廊下を歩いていた。そんな二人の目の前を、急いだ様子のリオンが通り過ぎた。
二人は、リオンに抱えられたルイーズを見て、驚きから声をかけるも、リオンには聞こえていないようだ。二人は、反応しないリオンに不安になると、リリーの部屋へと急いで向かった。
二人がリリーの部屋に到着すると、開かれたままのドアからは、リリーの背中を擦るレアと、大きな布を何かに被せるクロードとリアムの姿があった。
「レアさん、リオンくん、何があったの? 今、リオンさんがルイーズを抱えて急いでどこかに向かったわ。ねえ、ルイーズに何があったの!?」
「エリー落ち着きなさい! 心配なのはわかるけど、この状況を見なさい」
「っ...、ごめんなさい」
「エマさん、エリーさん。姉上が倒れました。おそらく、ここにあるぬいぐるみが関係してると思います。リオンさんは......誰も触れないようにと言って、姉を連れて行きました。それから……ブライスさんが......お医者様を連れてきてくれるって……」
気丈に振る舞っていたリアムだが、姉を心配するあまり不安になったようだ。エリーは、そんなリアムを抱きしめた。
「リアムくん、ごめん。よく頑張ったね。後でルイーズのところに行こうね」
俯きながら、何度も頷くリアムと泣きそうな顔のエリー。
そんな二人を見ていたエマが振り返ると、レアとリリーを見つめた。
「リリーちゃんは大丈夫だったの?」
「ああ、ルーちゃんが床に倒れたときの音で驚いたようだが、また眠り始めた」
「そう……レアはそのままリリーちゃんの傍にいてあげて。私はルーちゃんの様子を見てくるわ」
「頼む」
クロードはくまのぬいぐるみに布を巻き付け抱えると部屋を出て行った。その様子を見ていたエマは、エリーとリアムを部屋に戻らせルイーズの元に向かった。
エマがリオンの部屋の前に辿り着くと、ドアの前ではシリルが部屋の中のリオンに向けて話しかけていた。
「シリルさん、何かあったんですか?」
「リオンが、ドアを開けないんだ……」
「えっ?? 何をやってるんですか! 未婚の男女ですよ。具合が悪くても、二人きりになんてしないでください」
「そうなんだけど……、まあ、リオンは大丈夫だよ。無体な真似はしないと思う……」
「当たり前です! ルーちゃんに何かしたら許しませんよ」
そのとき、二人のもとに医者を連れたブライスとクロードがやってきた。
「どうしたんだ?」
シリルはブライスの問いに困った表情を見せながら状況を伝えた。
「あー、リオンがドアを開けないんだ」
「はっ!? あいつは何をやってるんだ。……ていうか、何がしたいんだ」
眉間にしわを寄せながら呆れた顔のブライスをクロードがなだめる。
「まあ、そう言ってやるな。リオンは……、色々とこじらせてるからな」
エマはブライスとクロードに声をかけた。
「……よくわからないけど、とにかくお医者様に診てもらいましょう」
「はぁ〜、仕方ない。やるしかないな」
突然何を思ったか、ブライスが勢いをつけて足でドアを蹴破った。周りが唖然とする中、ブライスは開いたドアから部屋の中に足を踏み入れた。三人もそれに続いて部屋の中に入っていく。
そこには、ベッドに横たわるルイーズと、その隣でルイーズの手を握るリオンがいた。リオンは四人に話しかけられても、全く気づく様子がない。
「……どうやら、俺たちの声は聞こえていなかったようだな」
「そうみたいだね……」
シリルとクロードは、尋常ではないリオンの姿に驚きを隠せないようだ。しかし、そんな二人を余所に、ブライスがベッドに近づくと、リオンの肩に手を置き力強く掴んだ。
「リオン、どうしたんだ? おい、しっかりしろ!」
「…………」
ブライスに怒鳴られ振り向いたリオンは、ようやく部屋の中にいる者たちに気づいたようだ。
「話は後だ。今は医者に診てもらうのが先だ」
リオンとブライスは、クロードの言葉で我に返った。




