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ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~  作者: 青依香伽
第5章 辺境の地へ

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2 異変


 幾分かの時間が過ぎた頃。


 ソファーに腰掛け、うたた寝をしていたルイーズが目を覚ましたようだ。立ち上がり窓際に寄ると、外はすでに夕闇が迫っていた。 リアムを探して隣の部屋を覗くと、ベッドで横になり夕寝をしている。


 そのとき、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。部屋へ案内してくれた侍女が、ルイーズとリアムを呼びに来たようだ。ルイーズはリアムを起こすと身なりを整えさせた。


 侍女に案内され、晩餐の用意された部屋に向かうと、そこは食堂ではなくゲストルームだった。部屋の中に入ると、エリーが一人で皆が来るのを待っていた。


 ルイーズとリアムは、侍女に促されて席に着いた。案内してくれた侍女は、お辞儀をすると部屋から出て行ったようだ。


「エリー、待たせてしまってごめんなさい。一人で待っていたの?」

「ええ。部屋に案内された後すぐにレアさんが来たの。そのあと、エマちゃんとレアさんは部屋を出ていったまま戻ってきていないわ」

「何かあったのかしら?」


 ルイーズとエリーの会話を聞きながら、何やら考えている様子のリアム。


「ご家族に何かあったのでしょうか。こちらへ来る途中に、エマさんから聞きましたが、この屋敷にはリオンさんとレアさんの御父上と妹君がいらっしゃるそうです。お二人に何かあったのかもしれませんね」


 ルイーズとエリーは、リアムの言葉を聞くと顔を見合わせた。


 しばらくすると、料理が運ばれてきた。食事を運んだ侍女たちが給仕を行うようだ。塊肉を切り分ける侍女を見ると、ルイーズとエリーは、その様子を興味深そうに眺めていた。

 食事も終わりデザートも食べ終えた三人は、ゲストルームを後にした。

 エリーの部屋へ立ち寄ると、エマはまだ戻っていないようだ。ルイーズは、眠たそうなリアムを確認すると、エリーを自分の部屋に誘った。


「エリー、私たちの部屋で、エマさんが戻るのを一緒に待つのはどうかしら?」

「ええ、そうさせてもらうわ」



 ♢



 紺色の帳が降りたころ、部屋を控えめにノックする音が聞こえた。ルイーズはソファーから立ち上がり、ドアに近づき扉をそっと開けた。


「ルーちゃん、遅くにごめんなさい。置き手紙を見たわ。エリーと一緒にいてくれてありがとう」


「エマさん……どうぞ、中に入ってください」


「ありがとう。そうさせてもらうわ」


 ルイーズは、疲れた表情のエマを見ると部屋に入るように勧めた。


「お茶を淹れますね。エリーがいますから、隣の部屋で待っていてください」

「ありがとう。リアム君は?」

「リアムは、先に休ませてもらっています」

「そうよね。もうそんな時間よね」


 ルイーズは、部屋に併設された小さなキッチンでハーブティーを淹れるとそのハーブティーをエマに差し出した。すると、エマはそれを一気に飲み干した。


 その様子を見ていたエリーがエマに話し掛けた。


「エマちゃん、何かあったの?」


「……レアが部屋にきたでしょう? あれから、レアに連れられてリリーちゃんの部屋に行ったら、リリーちゃんがベッドで横になっていたの。病気かと思って、部屋にいたリオンさんとレアに聞いたんだけど、二人とも原因が分からないって言うばかりで。動揺しているし、私にもなにがなんだか......分からないわ」


 ルイーズは、戸惑いの表情を見せるエマに尋ねた。


「妹さんの容態はそんなにひどいのですか? お医者様には診てもらったのですよね?」


「それが……クレメント家の侍医は、辺境伯爵様の遠征に同行しているそうなの……」


「そうですか……」


 顔色の悪いエマを心配したエリーが声をかけた。


「エマちゃんは、少し休んだ方が良いわ。食事はしたの?」

「食べていないわ」


 エマの言葉を聞くなり、ルイーズとエリーはキッチンに食べるものがあるか物色を始めた。


「エリー、ここには何もないわ。私、スープや軽食がないか調理場で聞いてくるわ」

「ありがとう、お願いするわ」


 エリーに頷くと、ルイーズは部屋を出て調理場へ向かった。



 ♢



 部屋を出たルイーズは、調理場の位置を考えているようだ。


(調理場は……生活する空間から離れた場所にあるものだけど、こんなに大きなお城だと、地下や別棟にあるのかしら)


 廊下を歩きながら使用人を探し歩く。しばらく歩くと、別棟に続く廊下が見えてきた。

 

(あそこまで行けば、誰かいるかもしれないわね)


 廊下の曲がり角に近づくと、メイドと思われる女性と。ルイーズは、少し驚いた表情の女性に声をかけた。


「私は、本日からこちらに滞在している者ですが、食事を取っていない者に食事を用意したいのです。料理場が稼働していないようでしたら、貯蔵室から食材をいただけないでしょうか?」


「かしこまりました。何をご入用でしょうか?よろしかったらお部屋までお持ちいたします」


「ありがとうございます。差し支えなければ、私も連れて行っていただけませんか?」


「調理場には入ることができませんが、貯蔵室にはまだ専用の係がいると思いますので、ご案内はできますが……」


「不躾なお願いをしてすみません。よろしくお願いします」


 メイドに案内され、貯蔵室にきたルイーズは、自分の想像を超えた部屋の大きさと食料品の豊富さに驚いている。感動した様子で辺りを見渡すルイーズに、男性使用人が声をかけてきた。


「失礼ですが、何か御用ですか」


 すると、案内してくれたメイドがルイーズの前に出て男性使用人に説明を始めた。


「ジェームズさん、こちらの方は本日より滞在されているお客様です。食事をお摂りになっていない方のために食材を必要とされています。お客様のご要望をお聞きいただけますか」

 

「メアリーさん、お客様をこのような場所にお連れするのはいかがなものかと……しかし、調理場はもう稼働していないですからね。——仕方がありません、今回だけですよ」


 ルイーズが名前を告げお礼を伝えると、ジェームズが食材や食器を選び、籠に詰めてくれた。


「そういえば、レアさんとリオンさんはお食事をされたのかしら……」


 ルイーズの呟きを拾ったジェームズが口を開いた。


「お坊ちゃまとお嬢様のお知り合いなのですね。お二人のお料理はもちろんご用意はしたかと思いますが……今日は何やら忙しない様子で、私どももそこまでは把握していないのです」


「そうでしたか。念のため、食材を少し多めにいただいてもよろしいですか?」


「それは構いませんよ。食材が多くなりましたら、そこにあるカートに乗せて運ぶとよろしいかと」


「ありがとうございます。お借りしますね」


 ルイーズは、想定よりも多くの食材を貰うことができた。それらをカートに乗せて部屋まで運ぶようだ。


 部屋に着いたルイーズは、早速調理に取り掛かった。ジェームズから多めにもらった玉ねぎを使って、エマにはオニオングラタンスープとサラダ、それらが食べられないときのために林檎と蒲萄のコンポートを作るようだ。作業中も何やら考えているルイーズは、途中でスープの量を増やした。


(いらないと言われたら、持って帰ってくれば良いわよね)


 リオンとレアにも持っていくようだ。料理が出来上がると、ルイーズはエマのいる部屋に急いで食事を運んだ。


「美味しそう。ルーちゃんいただくわ」

「良かったです。ゆっくり食べてくださいね」


 ルイーズはエマが食事を始めると、リオンとレアにも料理を持っていくと伝えた。


「そうしてもらえると、ありがたいわ。二人ともきちんとした食事をしていないと思うの。部屋はそんなに離れていないから、私も一緒に行くわ」


「エマさんは休んでいてください。先ほどこちらの使用人の方に、妹さんのお部屋は確認しましたから」


「ルイーズ、心配だから私も一緒に行くわ」

「エリーはエマさんと一緒にいて。リアムもいるからよろしくね」

「——わかったわ」


 リオンとレアの食事をカートに乗せて、急いでリリーの部屋に向かう。部屋の前にくると、ドアを静かにノックした。すると、中からリオンが出てきた。目の下には、薄っすらと隈のような跡ができている。帰ってきてからも休んでいないようだ。しかし、ルイーズの顔を見るなり、リオンは表情を和らげた。


「ルイーズ嬢? こんな遅くに何かありましたか?」


「いえ、こちらは特に何もありません。ただ、お食事がまだでしたら、こちらを召し上がってください」


「……ありがとう。いただくよ」


 ルイーズは給仕を遠慮して、リオンにカートを渡すとその部屋を後にした。



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