5 再会
エリザベスがルイーズの背中を軽く手を添えると自己紹介をするように促した。
「お初にお目にかかります。ブラン子爵家が長女、ルイーズと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
カーテシーをしながら挨拶をしたルイーズは、顔を上げると一瞬目を見張った。
先ほどエリーを運んでくれた人物と、自分が手当をした人物ではないだろうか。全体のフォルムや色合いから、多分あの二人ではないだろうか。どちらの瞬間も、驚きや焦りから、まともに顔を見てはいなかった。ルイーズは確信が持てなかったため、お礼を伝えることを控えた。
その様子を見ていたエリザベスは、美しいカーテシーを褒めるかのようにルイーズの背中をさすった。
「ルーちゃん、こちらの方から紹介するわね。こちらはリオン・クレメント様、辺境伯家の御子息で、レアのお兄様よ」
銀色の髪と、紺碧に紫を混ぜたような夜空色の目をした美丈夫だ。
先ほど手当てをしたときには、その目の美しさには気づかなかった。そして、リオンと目を合わせたルイーズは、吸い込まれそうなその色に見惚れてしまったようだ。
「レアさんの……、先ほどは、急に肌に触れてしまい、大変失礼いたしました。その後、傷の具合はどうですか?」
「ああ、先ほどは手当をしてくれてありがとう。すぐに止血したから大丈夫だ」
「そうでしたか。それは...良かったです」
会話が終了した後も、中々目を離さないルイーズとリオンに、周りは戸惑っているようだ。そこで、エリザベスは注意を引きつけるべく咳払いをした。
それに気づいたのか、リオンがルイーズから目を逸らした。
「気を取り直して……次はこちらの方ね。キース・エヴァンス様、公爵家の御子息で、いつも私たちとこちらの方々との橋渡し役をしてくれている方よ。これからはキース様とお話をさせていただくことが多いと思うわ」
「キース・エヴァンスだ。よろしく頼む」
「ルイーズです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
こちらは、一つに結わいた紺色の長髪と、水色の目が涼やかな美人さんだ。
三人掛けソファーの奥に座っている、金髪碧眼の貴公子然とした美青年と、顔の作りが少し似ているようだ。
「最後に、こちらはカルディニア王国第一王子のアレックス殿下よ」
「はじめまして、アレックス・カルディニアです。どうぞよろしく」
顔は知らないが、名前はもちろん知っている。ルイーズは、まさか修道院で第一王子に会うとは思ってもみなかったのか、少しばかり緊張した。
「ルイーズ・ブランです。こちらこそよろしくお願いいたします」
その時、イリスが皆に声を掛けた。
「さあさあ、自己紹介も済んだようだから、こちらに座ってお話したらどうかしら」
イリスの提案にエリザベスも頷き、ルイーズをソファーに座らせた。
「そうですね。ルーちゃんも緊張したでしょう。ソファーに座りましょう」
そのとき、離れたところにいたレアが、ソファーに近づきリオンに話しかけた。
「兄上、さっきはすまなかった」
「ああ、気にするな。さっきは、俺もちゃんと話を聞けなくて悪かった。リリーのことは、今度会って話をしよう」
「ああ」
喧嘩をしていたクレメント兄妹は、仲直りをしたようだ。レアは安心したような表情で、ルイーズに向き直るとお礼を伝えた。
「ルーちゃん、兄の怪我を手当てしてくれてありがとう」
「大したことはしていませんから。お怪我も酷くなさそうで良かったですね」
「ああ」
「レアにルーちゃん、そろそろ良いかしら」
エリザベスの呼びかけに、ルイーズとレアは返事をすると、皆の方へ向き直った。
♢
「まずは、これまで多くの有益な情報を提供してくれてありがとう。その情報を基に、いくつか分かったことがあるんだ。私自身、完全に理解したとは言いづらいが、現状、こちらで確認している内容を皆に知っておいてほしい」
「こちらとしては、最初から教えておいてほしかったですわね」
第一王子アレックスの説明に、エリザベスから不満の声が上がった。
「それについては、申し訳なかった。しかし、こちらで危険だと判断したものに関しては伝えられない」
「そんなに危険だと思われる情報を、こちらが把握していないことの方がよっぽど危険だと思いますわ。もし問題が生じても、何も知らなければ、こちらでは対応ができませんもの」
キースはアレックスとエリザベスのやり取りを見ながら口を挟んだ。
「エリザベス、そう責めないでくれ。これからも今まで通り、問題が解決するまでは協力を願いたい。これからもよろしく頼む」
「危険なことは知らせないだなんて……、その考えは分からなくもありませんが、そんな悠長なことを言っている場合ではないのでは?」
「エリザベスは、何でアレックスに対していつもそう喧嘩腰なんだ。いい加減にしないと不敬だぞ。昔はもっと仲が良かったじゃないか」
まだまだ終わりそうにない言い合いを、リオンが鋭い眼光で終わらせた。
「お前たち、話しが前に進まない」
「すまない」「すまん」「失礼いたしました」
「話が逸れてしまって申し訳ない……。アレックス、早く話してやってくれ」
リオンが他の者たちに謝りながら、早く話すようにとアレックスを急かした。アレックスはリオンに頷くと、全員の顔を見てから話し出した。
「ここからは重要な話になる。50年前の問題が起きたとき、当時の第三王女と深く関わった者たちは、皆一様に不自然な言動を取っていたらしい。初めの頃は、若者特有の精神状態だと大人たちは思っていたそうだ。それからすぐに、婚約を破棄するものが増えて、大人が気付いた時には手遅れの状態だった。ここまでは、皆も話を聞いたことがあると思う。
しかし、厄介なのはその後だ。結局、原因も分からずに、問題は解決しないまま、時だけが過ぎてしまった。
そこで私たちは、第三王女と関わった者がおかしくなった原因をずっと探ってきた。そして、行き着いたのが先代の王妃が保有していた原石だった。その原石は、隣国から嫁いでくるときに父王から貰ったものだそうだ。私たちはその宝石の回収を急いだ。
しかし見つかったのは大きな宝石が一つだった。隣国の者に確認したところ、その原石は傷もなく結構な大きさがあったようでね。大きな宝石が一つと、小さい宝石が数個は作れるという話だった。
しかし、今こちらの手元にあるのは大きな宝石が一つだけ。加工した際の残りの宝石も未だ見つかっていない。今はその残りの宝石を探しているところなんだ。君たちに話せる内容はここまでだが、何か気になることはあるかい?」
アレックスの話を聞いた直後、考え込んだ様子のエリザベスが口を開いた。
「隣国の者とは、どなたのことでしょうか? それと、何故、原因が宝石だと思われたのですか」
「それは、第二王子だ。それから、原因だと思った理由だが、第二王子の話だと、その宝石は隣国の秘宝とされていた宝石だそうだ。しかも、隣国は扱いの難しい石だということも分かっていながら、その秘宝を他国へ嫁ぐ娘に渡した。それは、もう個人間の問題では済まされない……」
「……なるほど。後は、宝石について詳しくお聞きしたいのですが、それはエマが来てからでも良いでしょうか」
「そうだね。そうしよう」
アレックスとエリザベスの会話が落ち着きを見せたところで休憩となった。すると、ルイーズは皆に話しかけた。
「少し外に出てきても良いでしょうか?」
「ルイーズちゃん、エリーちゃんが気になるのね。私も様子を見に行くわ、一緒に行きましょう」
ルイーズとイリスは、エリーが休んでいる医務室へと向かった。




