4 修道院へ行く③
「今のお話ですが、私の家族は知っているのでしょうか?」
イリスは動揺するルイーズに優しく答える。
「お祖父様とお祖母様は、ご存じのことも多いと思うわ。他のご家族は分からないけど、ルイーズちゃんに変化があったのなら、お父様やお母様もお気づきのことがあるのではないかしら。お家の事に関しては、直接お聞きしてみると良いわね」
「はい。それから......目の色が変化したということですが、自分では全く気付きませんでした。そんなことってありますか? 自分の顔の変化に気づかないなんてこと、ありえますか? 私、何か忘れていることがあるのかしら……」
エリザベスが、不安げな表情のルイーズに申し訳なさそうな顔で謝った。
「ルーちゃん、不安にさせてごめんなさい。目の色の変化については、まだ情報が足りなくてはっきりとしたことは分からないの。家族の特性や環境的な影響も調べたけど、決定的な答えは見つからなかったわ」
「そうですか……自分のことなのに、これまで何も知らずに過ごしてきたなんて……、教えていただいたことに感謝します」
イリスはルイーズの顔色の変化を心配して声を掛けた。
「貴女は身勝手な大人の問題に巻き込まれただけなの。本来なら、こんなことで思い悩むことなんてないのよ。ご家族の皆さんも、貴女がただ健やかに、毎日の生活を営むことを望んでいると思うわ」
ルイーズはイリスを見つめると頷いた。
「本当に良く似ているわ。貴女のお祖父様もとても清廉な方で、近くにいる皆が穏やかな気持ちになれるような、とても不思議な方だったわ。ルイーズちゃんは外見だけでなく、雰囲気もお祖父様に似ているわね。お祖母様を大切にされている姿を見て、憧れを抱いていた女性は多かったのよ」
イリスが微笑みながら視線を向けると、ルイーズは少しだけ気持ちを持ち直した。エリザベスはその様子を見ると安堵したように話し始めた。
「話の続きだけど、ルーちゃんの目の色が変化するような『何か』があった、と話したけど、50年前の問題が起きたときに第三王女に籠絡された人たちは、それはひどい状態だったらしいの。思考が乱された人、寝たきりの状態になった人、症状は人それぞれだったらしいわ。その話を聞いていたから、その『何か』によって、目の色が変化したのなら、それ以上の最悪な状態にならなくてよかったと話していたの」
「もしかして、ルーちゃんは癒しの力が強かったから、助かったということか?」
話しの途中で、レアのつぶやきが聞こえてきた。
「癒しというより、浄化の力ではないかしら。ブラン家には悪しきものを取り除く力があるって、さっき言っていたし……」
「ああ、そうだな。癒しより、浄化の方が強力そうだな。エマが前に話していた遠方の国にもそのような力があったよな?」
「そうね」
「二人とも、勝手に話を進めないでちょうだい」
「すまない……」「ごめんなさい」
エリザベスは、レアとエマの話によって、ルイーズが混乱することを避けるために二人の会話を遮った。
「ルーちゃん、今二人が話していたことだけど、ブラン家にはそういう力があるから、ルーちゃんは危害を加えられたときに、自己防衛できたのではないか、または時間を掛けて悪いものを取り除くことができたのではないかと修道院長様とお話していたの。それから、さっき話した『何か』については、私たちも危険だからと詳しい話を聞かせてもらえていないの。だから、今日は前に話した協力関係にある方たちに説明してもらうことになっているの。ここまで一気に話したから、疲れたわよね? その方たちがくるまで、少し休憩しましょう。修道院長様、よろしいですか?」
「そうね、そうしましょう」
皆はイリスの一言で休憩に入った。ルイーズとエリーは、気分転換のために外の空気を吸いに部屋を退出した。
♢
外に出た二人は、先ほど怪我をした男性の座っていたベンチに向かっていた。
ルイーズはベンチを確認するとほっと息を吐いた。
「良かった。ここにいた男性は医務室に行ったのね」
エリーも頷き微笑んだ。
「そうね。怪我をしたのは顔だけのようだし、自力で医務室に行けたと思うわ」
男性の座っていたベンチに腰掛け、二人は先ほどの会話を思い出していた。
ルイーズは楽しみにしていた修道院訪問で、こんな話しを聞くことになるとは思ってもみなかった。隣に座るエリーに視線を向けると、不安そうな表情で疑問を口にした。
「エリー、さっきの話を聞いて、幼い頃を思い出していたの。エリーも、私の変化に気づいてた?」
「……目の色に、違和感を覚えたときがあったわ。その頃、二人で話したことや、約束したことを忘れていたことがあったの。あの頃は、目の色や記憶についても、自分の思い過ごしなのかもしれないと思ったの。姉や母に聞いても何も分からなくて……。ルイーズに何かあったんじゃないかって不安だった。でも、私は何もできなくて...ごめんなさい」
「エリー、私がそんな状態なのに、いつも側にいてくれてありがとう。エリーとの思い出も、取り戻せたら良いのだけど……まだ混乱しているのかな。少しずつでも、回復できるように努力するわ。だから、思い出せるまで待っていてくれる?」
「もちろんよ。思い出せなくても、ルイーズと変わらずにこうして一緒に過ごすことができるだけで、私は幸せよ」
エリーは、ルイーズの変化に気づきながらも、何も分からない状態で共に過ごしてきたようだ。もしそうだとしたら、継続的な不安を抱え心労的な負担も大きかっただろう。
その後、修道院長室に戻るためにベンチから立ち上がると、エリーが前のめりに倒れた。驚いたルイーズが助けを呼ぼうとした時、近づいてきた人物が、急いでエリーを医務室に運んでくれたようだ。
医務室で診てもらったエリーに外傷はなく眠り続けているため、そのままベッドで休ませることになった。
その後、知らせを受けたエマが医務室に来ると、ルイーズに修道院室に向かうように伝えた。
♢
ルイーズとエリーが休憩で外へ出た後——
修道院長室には外部の人間が来ていたようだ。ドアの前に立たされている男性が三人、エリザベスからお小言を言われている。
この三人は市井に訪れる際に着用するような衣服だが、容姿が整い過ぎているため高貴な雰囲気が崩せていない。その中の一人は、顔にガーゼを貼っているため、少し悪目立ちをしているようだ。
エリザベスが、中央に立つ男性に話しかけた。
「殿下、遅かったですね」
「——すまない」
「......こちらも色々あって、休憩していたところです。今日ご紹介させていただくご令嬢が戻るまで、お話させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「ああ、よろしく頼む」
エリザベスは、頷きながら男性たちにソファーへ座るように促すと、先ほどまでの会話の内容を話し始めた。
「それは間違いなく、影響を受けているな」
「ええ、でもブラン家にそのような力があったこと、殿下はご存じでしたか?」
「いや、初めて聞いた。ご家族は表沙汰にせず、力のこともご令嬢のことも隠して守って来たのではないだろうか」
その時ドアがノックされた。
「失礼いたします。ルイーズです」
「どうぞ、入って」
部屋の中からはイリスの返事が聞こえた。ルイーズが部屋の中に入ると、エリザベスがドアを開け出迎えた。
「エリーのことは聞いているわ。多分、安心して気が緩んだのではないかしら。だから、エリーのことはエマに任せて。あまり心配しないでね」
「はい」
ルイーズの返事を聞くと、エリザベスはルイーズの背中に手を添えて彼らの元に連れて行った。
「ルーちゃん、こちらの方々が先ほど話した方たちよ」




