3 修道院へ行く②
先ほど院長室に来るまでの間、エリザベスに院内を案内してもらった二人は、医務室も確認していたようだ。
侍女科に移ってからの二人は軽い怪我をすることが度々あった。その時、怪我を軽くみてはいけないことをマノン先生から言い聞かされていたようだ。
部屋を後にした二人は、静かに急ぎながら医務室に向かった。来た時に通った廊下では、まばらだが人が多く点在していたため、遠回りだが、途中から右側の廊下を渡って医務室に向かった。
無事に医務室に辿り着いた二人は、消毒液やガーゼ、タオルを貸してもらうと急いで医務室を後にした。
「お祈りの時間は終わっているはずだから、これから作業をするのかしら。思ったよりも人が多いのね」
辺りを見回すエリーにルイーズが話しかけた。
「そうね。——ねえ、エリー。あそこに座り込んでる人がいるけど、大丈夫かしら?……私、ちょっと行ってくるわ」
二人のいる場所から、二十メートル程のところに蹲っているような人物が見える。ルイーズが近づくと、そこには口の端から血を流している男性がいた。ルイーズが声を掛けると男性は顔を上げた。
「大丈夫ですか? 口の端から出血しています。ちょっと失礼します」
男性の口元にガーゼを当て、出血している部分を軽く押さえる。
ルイーズに傷口を押さえられている男性は、目を丸くしながら驚いた様子でルイーズの顔を見ている。エリーは、男性の顔が赤く染まっていくのを見ると、ルイーズに話しかけた。
「ルイーズ、その方、医務室で傷口を見てもらった方が良いと思うわ」
ルイーズはエリーの言葉に頷くと、男性に医務室に行けるか聞いているようだ。
「……親切に…ありがとう。すぐに行くから心配しないでくれ」
男性の言葉に安堵したルイーズは、お辞儀をするとその場を去った。そのため、その姿をずっと目で追う男性の視線に気づかずにいた。
♢
その頃の修道院長室——
エリザベスがイリスに、ルイーズとエリーについて詳しく説明していた。二人の情報を共有しているようだ。
その間、自分の手をじっと見つめるレアに、エマがどうしたのかと尋ねた。
「今しがた、ルーちゃんに握られた手なんだが、痛みが和らいだような気がするんだ。傷が消えたわけではないんだが……」
「? 気のせいじゃない? 人の体温やぬくもりで、心が落ち着くとかよく言うじゃない」
「そうだろうか……心が安らいだような感覚にはなったが……」
イリスとエリザベスは、レアとエマの会話を聞くと視線を交わした。
「先日ご連絡した内容ですが、私の予想した内容が正しければ、ブラン家には悪しきものを取り除く力や癒す力があるということでしょうか? 今までそのような事例を見聞きしたことがないので、あくまでも私の想像ですが……」
エリザベスの発言を聞いたイリスが口を開こうとしたその時、エリーとルイーズが部屋に入ってきた。
「遅くなりました……申し訳ございません。——聞くつもりはなかったのですが、私の家名が聞こえたので……ブラン家についてのお話でしたら、私も教えてほしいです」
イリスはルイーズに声を掛けた後、エリザベスに問いかけた。
「そうね、知りたいと思うのは当然だわ。どうかしら、こちらで分かっていることは話してあげた方が良いと思うのだけど」
エリザベスはイリスに視線を合わせると頷いた。
「そうですね。あくまでも推測の域ですが。説明不足の時は補足していただけますか?」
「わかったわ。私のわかる範囲だけど、お話をさせてもらうわ。さあ二人とも、こちらに座ってちょうだい」
二人がソファーに座るのを確認すると、エリザベスが語りだした。
「ブラン家の話をする前に、なぜこのような話をしていたか説明するわ。きっかけは、エマから幼い頃のエリーとルーちゃんの話を聞いたことなの。思い出話をしていたときに、ルーちゃんの目の色が変化したという話になったわ。違和感を覚えた私たちは、すぐさま調べたんだけど答えは見つからなかった。
そこで、この話を修道院長様に尋ねたの。そのとき、ルーちゃんのお祖父様や第三王女の話を聞いたわ。50年前に第三王女は、ルーちゃんのお祖父様に懸想していたそうなの。
ここからは、私たちの予想だけど……、第三王女は、お祖父様に恋をしたけど、相手にされなかった。そこで、傷ついた第三王女は50年前の問題を起こして、幽閉された。その後、結婚をして子供が生まれ、孫ができたお祖父様は、ブラン子爵の代わりに、後継者として育てていたルーちゃんを連れて領地を回っていた。その二人を見かけた第三王女、もしくはその関係者がお祖父様にそっくりなルーちゃんに危害を加えた。そのときに、目の色が変化するような『何か』があったのではないかしら……ここまでが、ルーちゃんの目の色が変化した理由の予想よ。ここまでで、何か質問はあるかしら?」
話しを聞いたイーズは愕然とした。50年前の問題に、間接的だが自分が関わっているなど思いもよらなかった。
ルイーズは胸に手を当てると、速まる鼓動を抑えながら話し始めた。




