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ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~  作者: 青依香伽
第3章 侍女科

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6 生徒会室(お茶会終了後)


 エリザベスとレアとエマの三人は、お茶会が終了すると生徒会室へと戻って来た。

 三人はそれぞれの定位置であるソファーに腰掛けて、何か考え事をしているようだ。


 落ち着いてきたころ、エマが口を開き話し始めた。


「レア、まずはあなたに言いたいことがあるわ。今日のお茶会は授業の一環だってこと分かっているわよね? それなのに、あんなにもサンドイッチをバクバクと食べて! あそこには、食事をしに行っていたわけではないのよ。時と場所を考えて!」


「まあ、そう怒ることもないじゃない。レアの行動によって、あの子たちの対応を見ることもできたのだから。ゲストの観察も、迅速な対応も出来ていたのではないかしら。エマ、そう怒らないで……。眉間にしわが寄っているわよ」


 エリザベスにしわを指摘されたエマは、急いで眉間の辺りを押さえた。


「でも、エマの言うことにも一理あるわね。レア、私たちは淑女科の生徒なのよ。しかも、生徒会に属しているの。これでも、生徒の見本にならなければいけない存在なのよ。次回からは気をつけましょう」


「ああ、すまなかった。次回は気をつける」


 反省するレアに、エマは頷き、エリザベスは「そうね、気をつけましょう」と言葉をかけた。これで話も終わりかと思われたその時、エマがはっとした表情でレアを見つめた。


「違うわ、そうじゃないのよ。言おうとしたことは別にあるの。レア、エリーとルーちゃんのことはそっとしておくようにお願いしたでしょう? リザもよ、お願いだから二人の事はそっとしておいてね」


「何だか、不自然ね。今日知り合ったのだから、どこかで会えば声を掛けることもあるだろうに。まあ、良く分からないけれど、分かったわ」


「……分かった」


 エマの言わんとしていることが、さっぱり分からないという顔の二人だったが、何か事情があるだろうことを察したのかすぐに引き下がった。


 自分の言い分を聞き入れてくれた二人に、エマは一先ず安心したようだ。


 それからしばらくすると、書き物をしていたエリザベスが顔を上げた。


「やっぱり、有耶無耶にされると駄目だわ。エマ、言えない内容なら、無理に言わなくてもいいけど......。何故、そこまであの二人をそっとしておけだなんて言うのかしら。何も知らない此方としては、とても気になるわ。私は従姉妹だけど、二人のことは家族同然に思っているのよ。

あの忌々しい事件、ああ……問題ね。あの問題自体が、未だに謎だらけなのよ。あれを片付けるまでは、他の事に疑問を残すことはいやなの。ましてや、それが身内の事なら尚更ね。だから、もし話せる内容なら教えてほしいわ」


 エリザベスと視線を交わしたエマは、一瞬ためらった後に口を開いた。


「ごめんなさい。確かに、あんな言い方をしたら気になるわよね。でも、大したことではないのよ」


「…………」


 エマが話を逸らすが、エリザベスは中々引き下がらない。エマはため息をつくと、諦めたように話し始めた。


「——分かったわよ、話すわ。——あれは、私が9歳になる前のことね。その日は、ブラン子爵夫人とルーちゃんが、うちに遊びに来ていたの。母親達は、いつも通り二人でお茶会をして、エリーとルーちゃんは、子供部屋で遊んでいたわ。私も屋敷にいたから、子供部屋で二人の様子を見ていたの。


その時、二人から『……侍女に』とか、『……なるわ!』っなんて薄っすらと会話が聞こえてきたから、『二人は侍女にはなれないわよ』って声を掛けたの。あの頃の私は、友達なんて興味もなかったけど、ちょっとだけ二人の関係が羨ましかったのかな……。大泣きされたから反省したわ。

今回、二人は侍女科に移ったでしょう? あの時のやり取りを覚えているのか、エリーに聞いてみたの」


 次に続く言葉を言おうか躊躇う様子のエマに、エリザベスが穏やかな声で話しかけた。


「大丈夫よ、ゆっくりでいいから。話してみて」


 エマは頷きながらも、どう説明すればいいのか迷った様子だ。


「エリーは、二人で一緒に侍女科へ移れたことは喜んでいたの。でも『ルイーズは、あの頃のことは覚えていない』って言うのよ。あの子はそれ以外の事を教えてくれないし、子供の頃の記憶なんて、曖昧なこともあるかとあの時は思ったんだけど......。


 後から考えると、違和感があるのよね。ルーちゃんは、約束とか大切にしそうなのに、覚えてないなんてことあるのかしらって。覚えていなくても仕様がない……、で片づけてはいけないような……。ごめんなさい。話している私が分からないのに、理解するのは難しいわよね?」


 エマは、眉間を寄せながら首を傾けるエリザベスに困った顔で問いかけた。


「そうね。でも、エマが違和感を覚える気持ちは理解できたわ。そういう違和感を無視してはいけないのよね」


 エリザベスは自問するかのようにゆっくりと頷いた。すると、それまで聞き役に徹していたレアが話を切り出した。


「ルーちゃんの家名は、確かブランだったか……、ブラン子爵家。確か、先代当主は端麗で剣のお強い方だった、という話を父から聞いたことがある。先代は、今も健在なのだろうか?」


 ブラン子爵家の先代当主について聞かれたエマは、昔のことを思い出しながら、考えを巡らせているようだ。


「そういえば、諸外国を巡っていると聞いたことがあるわ。ルーちゃんが幼い頃は、よく一緒に連れて歩いていたそうよ。歳の離れた弟がいるのだけど、その子が生まれるまでは、ルーちゃんを後継者として育てていたのではないかしら」


「ねえ、エリーは他に何か言っていなかった?」


「子供の頃は......、『ルーちゃんの目はとても綺麗なの』って言っていたわ。『森の中ってあんな感じなのかしら』て聞かれたことがあるわね。私の想像する森は暗い印象だから、『森は暗くて怖いわよ』と答えたけど……捉えかたの違い……? 気づかなかったわ。エリーにとっての森は、新緑や木漏れ日? かしら。そうね、それだったら納得できるわ」


 一人で納得するエマに、エリザベスがその先に続く言葉を求めた。


「エマ、どういうこと?」



「子供の頃、私が抱いた森の印象は、夜の暗い木々なの。だけど、エリーにとっての森は、新緑や木漏れ日のような明るい印象なのよ。エリーは、よく絵本を読んでいたけれど、私は挿絵のある本をあまり好まなかったから......、気づかなかったわ」


 エマは、「なるほど」と言いながら納得した顔で頷いている。


「——森の話は分かったわ。それで、何に納得しているの?」


「ルーちゃんの瞳の色よ。エリーと私の森の印象が全く違うのよ。二人の主観に違いがあったから、話しが嚙み合わなかったんだわ。幼い頃のルーちゃんの瞳の色は……、青緑? というのかしら。透き通った色でとても綺麗だったわ。でも、今は青より緑が強いのよね……、えっどういうこと?」


 エマは驚いた表情でエリザベスに問いかけた。


「——こちらが聞きたいわよ。ルーちゃんは貴族令嬢よね。毎日、野山を駆け回っていたわけでもないわよね。もし環境によって変化したのではないのなら……、ご家族はどうなのかしら。エマらしくないわね、おかしいと思わなかったの?」


「劇的な変化ではないから……、そこまで真剣に考えなかったわ」


 少しだけしょんぼりとした様子のエマを横目にエリザベスが口を開いた。


「何かが引っかかるわね。少し調べてみましょう」


 三人は視線を合わせて頷いた。




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