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ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~  作者: 青依香伽
第2章 ルイーズの気持ち

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6 丘の上の修道院


「院長先生は、私が学院に通っていたときは教員だったの。グレース先生とお呼びしていたのよ。歳は離れているけれど、お姉様のような存在だったわ。美しいだけではなく、知的で優雅で、それでいて寛容で……。学院に入学して教えを受けたときは、こんなにも素晴らしい人がいるのかと、感動したことを覚えているわ。私たちの世代では、憧れていた人が多いのではないかしら」


「そうなのですね」


「ごめんなさいね。一人で話し過ぎたわ。とても懐かしくなってしまって」


「いえ、そういう話を聞きたいです。学院にもようやく慣れてきて、まだ分からない事ばかりなので」


「そうよね」


「——お母様、一つお聞きしてもいいですか?」


 ルイーズは、他の人には尋ねにくいことをエイミーに聞くことにした。


「何かしら? もう何十年も前の話だから、私のわかる範囲でよければ答えるわ」


「——上級生たちが、丘の上の修道院に向かって、ひっそりと祈るところをたまに見かけるのです。信仰心が篤い方たちなのでしょうか。上級生たちは、あの場所に出向かわれたことがあるのでしょうか。私は、まだ訪れてことがないので、伺ってみたいと思っていたのです」


 ルイーズにとっての修道院は、神聖な場所というイメージだ。小高い丘の上に建つ象牙色の建物は、その麓にある学院から見上げれば、寛容で温かな雰囲気だ。


 エイミーには、ルイーズの言っていることがすぐに分かったようだ。


「——ルイーズは、このカルディニア王国で、50年程前に起きた問題を知っているわよね」


「はい」


「その当時、婚約を破棄された方や、家を勘当された方の多くが、あの修道院に駆け込んだの」


 エミリーから、その後の彼女たちの様子を聞いたルイーズは悲しい気持ちになった。もちろん、不遇な立場になり駆け込む人がいることは知っているが、彼女たちがどんな気持ちだったかなんて計り知れない。

 自分と同年代の少女たちが抱えたであろう苦しみや辛さを思ったら、祈らずにはいられないのだろう。どうか、安らかな日々を過ごせていますようにと。


 祈りを捧げている者たちの中には、元々信仰心の篤い者もいるかもしれないが、少女たちのことを詳しく知る者も中にはいるのだろう。

 おそらく、50年前に被害を受けた高位貴族たちは、しっかりと理解し、その内容を把握しているのかもしれない。


 だか、ルイーズが知らなかったのは仕方がない。それだけ避けられていた話題なのだから。


「……祈りを、捧げていた方たちの気持ちがよくわかります」


 エイミーは、肩を落としながら退出するルイーズを見送ると静かに呟いた。


「学年が上がるにつれて、知ることが増えてくるのでしょうね。ルイーズにも、その時はどうか受け止めてほしいわ。どうか、皆が心安らかに過ごせますように」


 ♢


 朝日が昇る前の時間に修道院を訪れる人物が一人。


 その人物は、馬車から降りると慣れた様子で修道院長室に向かう。


 普段は旧友に会うために、月に一度は訪れているのだが、ここ最近は時間が取れず二ヶ月ぶりの訪問のようだ。


「久しぶりね、グレース。会いたかったわ」


「私も会いたかったわ。イリス」


 久々に会う友人と抱擁を交わし、お互いの無事を確認しあっている。


 学院長のグレースは、修道院長のイリスに勧められてソファーに腰を下ろした。


「しばらくこちらに来られなかったけど、貴女もシスターたちも変わりはないかしら?」


「ええ、皆変わりなく、穏やかに過ごせているわ」


「それは何よりだわ。何か困ったことはないかしら。不足しているものは?」


「大丈夫よ。届けてもらっている物だけで十分よ。いつもありがとう」


「そう。それなら良かったわ」



 イリスは、50年程前に心身ともにバランスを崩し、この修道院に入ってシスターとして過ごしていた。今ではシスターたちを見守り、導いていく修道院長になった。


 傷ついた友人の姿を間近で見ていたグレースは、立派になった姿を見ても、ついつい過保護になってしまうようだ。いくつ歳を重ねても、それは変わらないのだろう。


「そういえば先日、元生徒の娘さんが、淑女科から侍女科への変更の手続きにきたのよ。

まっすぐでやる気に満ちていて、それだけで心から応援したくなってしまったわ。その場で勝手に面接をしたから、後で他の先生には怒られるかもしれないけど——」


 はにかみながら微笑むグレースに、イリスは同意するかのように頷きながら答えた。


「良いんじゃないかしら。昔の私たちでは、考えられないけどね」


「本当にそうね。生徒たちは、娘や孫のような存在というのかしら。絶対的な味方でいてあげたいのよ」


 イリスは、「わかるわ」と言いながらゆっくりと頷いた。


「ただね、年齢的にも、そろそろ次に引き継ごうかと思っているの。先生たちも優秀だし、安心して任せられるわ。後は、問題が解決すれば憂いはないのだけどね」


「……先週、王子と公爵の御子息が訪ねてきたわ。例の物は、まだ見つかっていないそうよ」

「そう……あの子たちには、不憫な思いをさせているわね」


「あの子たちも、問題が解決しない事には前に進めないのよ」


「——そうね」



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