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本で人生が変わった人

本で人生が変わった人の話

作者: 山田 勝

 私は山田、30前のしがないサラリーマンである。

 学生時代から、あるカルト宗教と関わってきた。



 同級生に八木という者がいた。家は新興宗教の信者だ。

 ここは田舎だ。決して、多数派ではない。

 しかし、結構、布教を行っていた。



「山田!今度の部活の試合勝てるように祈るよ。祈ると宇宙のリズムに乗って、何でも上手くいくのだ!」


「はあ」



 祈ってくれるのは嬉しいが、何故、中学の部活の試合に宇宙のリズムが必要なのか。甚だ疑問だ。



「山田!元気ないよ。集会にきなよ。皆、顔が輝いているぜ!」



 と一回くらい行っても良いだろうと思ったが、後悔した。

 どこかの幹部の家のようだ。



「な?」


 仏壇を見て困惑する。

 仏壇に手を合わせられないのだ。


 何て言うか、一言で言えば、不吉なものを感じる。少しも有難い気持ちにならなかった。

 指導者の写真や、スローガンの垂れ幕が仏壇の近くにある。



 そう言えば、八木の家に遊びに行ったことがあるが、彼の部屋に仏壇があった。

 二段ベットが置いてある部屋だ。風水以前に、何かバランスが悪いと思った。

 マイ仏壇のようだ。


 これをスケールアップした感じか?




 ・・・・・



 幹部の家では、遠くから人が集まって来た。

 信者過疎地帯のようだ。


 それでも、大人が5~6人集まり。



 題目を唱えて、何か、音楽会が始まった。



 皆、ニコニコして、友好的だけど。

「いや、埼玉大顕道会の奴らが家に訪ねて来たけど論破してやりましたよ!」

「アハハハハ、それはいい」

「正義宗の奴らは見ない。信徒いるのか?」



 時々、他宗と戦っている話が出た。


 地区の幹部の人が話をして、それでおしまい。


 良い所は、一生懸命に人の話を聞くことか?

 そして、褒める。


「僕は、〇〇に就職が決まりました!」

「「「おめでとうーーー」」」

「大企業じゃないか。すごいぞ。八木君!」




「なあ?しつこくないだろう?次も来るだろう?」


「行かない・・・」



 それから、いろいろな事があった。だが、皆、似たり寄ったりだ。

 それ以外は、まあ、害のない同級生だ。




 就職してから、ある日、八木と再会した。



「山田、矢田さん。ズハサシチブン様になったから、近づかない方がいいぞ。絶対だよ」


「分かった」


 専門用語はよく分からないが、罵倒する言葉だ。

 この教団は、敵対者をガンで死亡!とか、おどろおどろしい言葉を使う。


 矢田さんとは、町内会の知り合いだ。祭りの準備の時に知り合った。

 少し、年上の女性だ。

 あそこの家も、新興宗教の家だったが勧誘はあまりしていなかった。



 八木が絶対に近づかない方が良いと言うことで、挨拶がてら、話を聞こうと思った。


「義姉さん。あそこの家一緒に行こう。実は話を聞きたい」

「はあ、あんたも物好きね」



 ピンポ~ン♩


「あの山田です。回覧板を持って来ました」


 ガラガラガラ~



「あら、久しぶり・・・・山田さんとこの姉弟ね」



「実は、話を聞きたくて」




 ・・・・・・



 庭を見通せる縁側にあげてもらった。


 ワンワンワン!


「まあ、可愛い。豆柴ちゃんね」

「フフフ、どうぞ。遊んでもらって」



 単刀直入に聞いた。

「やめたのですか?」


「ええそうです」


 ときっぱり言う。


 話の内容は、元々悩んでいたこと。



「政治家になりたくて、困っている人を助けるんだと、一生懸命に活動をしたのよ。幹部に抜擢されて、嬉しくて一生懸命に頑張ったのよ」


 ちょっと、ここではかけないようなことを話した。

 内容は、お金と人を集めれば、教団から声がかかり。それなりの地位にいけて、庶民を助ける仕事に就けるというものだ。



「だけどね。それは、嘘、最低大卒じゃないと声がかからないとね。分かったの」


 私は、落ち込んだわ。でも、それでも縁の下の力持ちになればいいと思ったわ。



 しかし、決定的な事が起こったの。


 コ〇〇の時よ。



「え、人を駅前に集めろ・・・・今は外出を控えろとなっていますが、もし、コ〇〇に罹患したら・・・」

「それは、個人の責任で頼む」


 プチッ



 私はね。一人で演説会に向かったの。

 帰り悔しくて涙がこぼれ落ちたわ。


 そしてね。スーと、古本屋に入ったの。

 不思議ね。


 文庫本を、何気なく手に取ったの。自己啓発本よ。


 よくある自己啓発本だけど、違うのは、古いのよ。

 昭和の戦前に活躍した人の話で・・・・パラっと見て驚いたわ。



「理想の法華の行者の姿が描かれていたの」


「へえ、そうなんですか?」


 本を見せてもらった。大手出版社から発行されたもので、

 本の主人公は、当時、死の病と言われた結核にかかっていた。


 普通はどうするか?


 この人はぶっ飛んでいた。いや、笑ってはいけない。命がかかっているのだ。


 海外に飛び。医学の学校に忍び込んで学び病気を治す術を探した。

 世界中を回り。あるとき、中東の商人に声をかけられ、チベットに向かう。

 ここで、ヨガの修行をしていたら、いつのまにか病を克服していた。



「この人は、中国大陸で間諜のような仕事をしていたみたいね。戦後は、各界の著名人と対談したり。財団法人を立ち上げて、ポジティブになる瞑想方法を普及させたりもした。

 財団も存続しているけど、小さいわね」



 八木の話を聞いて、この教団の行動原理が分かっていた。


 現世利益信仰がとても強く。彼らの体験談は、


 病を克服する話。

 願いを叶える話

 チヤホヤされる話


 に要約される。


 そして、頑張っていれば、不思議と人が助けてくれる。となる。

 勿論、題目を唱えて、教団に奉仕し、指導者に感謝すればだ。


 この本の話には、教団がない。感謝するのは、大自然だったり。周りの人だ。



「これを読んで、教団に所属する意味が分からなくなったのよ。だから、活動から足を洗って、資格を取って、東京で働いて、いずれ政治家になろうと思っているわ」



「立派な考えですね」


「ところで、心配なのは貴方よ。何故、私に興味を持ったの?毒太鼓のたとえがあるわ。

 簡単に言うと、この教団の教えを聞いたら、最初は反発をしていても、不思議な縁がつく・・・・。愛の反対は無関心よ。逆縁でも縁を持ってはいけないわ」



 ワンワンワンワン!


「もう、やっぱり、本物のご主人の方が良いのね」


「あら、こんな時間だわ」

「お話有難うございました」

「お構いもなく」




 ・・・



 後で話を聞いた。矢田さんは、新興宗教なのに、珍しく町内会の仕事を率先してやっていた。

 噂では、議員に立候補するための布石だとも言われていたが、まあ、一生懸命にやることは良いことだ。


 しかし、学歴で道を閉ざされた。良いとこ無給の幹部で一生を終える。

 真面目な人はいられないのか?



 その後。

 八木とは、ガソリンスタンドで再会した。



「え~、水抜き剤を入れさせて下さい・・あっ」

「八木?」


 話では、大企業に就職したのでは、いや、薄々分かっていたが・・・・


 知らない方が良い事を知ってしまった。



 後に、矢田さんの人生が変えた本は、迷える教団の信者に取って、密かに読まれていると聞いた。

 偶然に本を取ったのだろうか?いや、それが真実になるのなら良いのではないか?



 それから、私には、不思議と新興宗教やマルチのようなものにはまっている人に出会う確率が多くなったような気がする。



 研修で一緒になった人が、

「実は、俺、仏教をやっています!今度の休み。皆で東京に行きませんか?ついでに案内しますよ」

「そうか、そうか」



 意味深に近づく派遣の女性、逆ナンか?と思ったら。

「あの、山田さん。お話しませんか?会社終わったら、待ち合わせしませんか?」

「話は何ですか?」

「はい、これからの日本の事です」

「もしかして、埼玉の方に本部のある教団?断ります」

「ええ、そうですか?」


 実は逆ナンと思って付いていったら、勧誘だったは一回経験をしている。




 縁がついたと言うよりも、その手の人間が分かるようになったというべきだと思う。

 何も知らない方が幸せだったなと思う自分がいる。


最後までお読み頂き有難うございました。

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