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どうぶつ村のエリカと妖艶なデーモン  作者: あめ野コッキー
1.不穏な星のプロローグ
4/26

2

それは凄惨せいさんな光景であった。


彼女の左腕が宙を舞い、切断面から血が弾けるように噴出する。

壁には血が飛び散り、床には大量の血がしたたり落ちた。


「ガハッ……!」


彼女は左肩を抑えてひざをついた。激しい痛みに苦しみもだえて嗚咽おえつを漏らす。


既に左腕に加えて右翼が切断されており、左目は潰され、彼女の視界は真っ赤に染まっていた。


彼女は歯を食いしばり、耐えられるはずのない痛みに必死に抵抗する。

口からは血紅色けっこうしょくよだれが絶え間なくこぼれ落ちていた。


しかし、敵は彼女に苦しむ時間すら与えてはくれない、たちま容赦ようしゃのない追撃が迫る。


素早く反応した彼女は左翼をひるがえし、右腕をバネにして後方へと跳んだ。


彼女が着地するその瞬間にも、眼前には敵が迫って来ていた。

痛みを感じる暇もなく、彼女は必死に敵の攻撃を避け続ける。


大量の出血、彼女の意識は今にも途絶える寸前であった。


やがて追撃が止むと、敵は疲れた様子で額の汗をぬぐって得物えものを構え直していた。


朦朧もうろうとする意識の中、彼女は敵の追撃が止まったその瞬間を見逃さなかった。

彼女は満身創痍まんしんそういの自身の身体からだむちをうち、最後の力を振り絞って地面を蹴った。


それは直線的特攻であった。


研ぎ澄ました感覚により彼女の視覚がとらえる物体の速度にわずかな遅延が生じる。


──敵は一直線にける私に対し最上段に構えた一閃いっせんたくらみ──。


遅延が生じた視界の中で彼女はそれを視認した。


直後振り下ろされる刃、避けきれぬ高速の斬撃、彼女は左翼を犠牲にわずかに右方へと逃れ、速度をゆるめず翔け抜ける。


一瞬毎に食い込むやいばの感触、それは左翼が切断されるまで続く苦艱くかんの一瞬。


彼女はそれを置き去るように敵のふところに飛び込んだ──。


「──っ!!」


敵から声にもならない声があがる。

同時に彼女は右腕を槍のようにしならせた。


「──死ね」


彼女は血を吐き出しながら怨嗟えんさを込めてそうつぶやくと、鋭くとがらせた爪のきっさきで敵の胸部をつらぬいた──。



────────‥‥‥勝った。



意識も飛びそうな苦痛の中、勝利に胸を撫で下ろした彼女の耳元に、悲嘆ひたんに満ちた声で呟く声が届いた。



「あーあ、また負けちまったよ」

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