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閑散とした町の外、しっとりと湿った空気が漂う森の中に、密かに佇む城館があった。
森を切り開いて建てられた城館は大きく荘厳であったが、長年手入れがされていないようにボロボロであった。
城館の外壁はカビや雨垂れで黒ずんでおり、無数にある窓硝子のほとんどにひび割れが散見された。
外周の広く大きな庭は、全く手入れがされていないようで荒れ果てている。
正しく廃城のような姿をしており、外見からは到底、人が住んでいるとは思えない城であった。
しかし、ただ一人この廃城に住んでいる者がいる。
城の一室、部屋の最奥にある玉座に彼女は腰掛けていた。
その表情は虚ろであった。
切れ長の目は垂れ下がり、紅く美しい瞳は焦点が合っていない。
背中まで伸びた黒く艶のある長い髪は、萎れたようにしなだれている。
生気を失ったようにピクリとも動かず、まるで人形のようであった。
彼女はとても扇情的な装いをしていた。
それは下着姿と言っても大差のないものである。
そんな装いからは悩まし気な肢体が惜しげもなく覗いており、それは妖艶で魅力的な人間の女性そのものであった。
しかし、彼女は人間ではない。
鮮やかな色彩の青い肌に、頭の両側から生えた二本の角、鋭い爪のある蝙蝠の翼に、柔軟な槍のようにしなる尻尾。
彼女はこの城に住まうモンスターであり、より強力な能力を有する個体、ボスモンスターと呼ばれる存在であった。
彼女に固有名称はない。
彼女は、この世界で目覚め自我が芽生えたその時から、自身の種族をこう認識している。
悪魔。
──そしてまた、静寂に満ちた城に響き渡る。
それは、扉の開く音。
それは、鎧の擦れる音。
それは、大きく脈打ち始める、彼女の心臓の音。