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「○ね!」
「ふざけんな! ここまで追い詰めたんだぞ! とっとと○ねよ! ○ね! ○ね! ○ね!」
「妙な飾付けしやがって! ここは○○○にでもなったのか?!」
「その格好はなんだ! ○○○○かよ!」
「牛女! ○○悪魔! ○○女!」
「大介! お前も何ぼーっとしてやがる! 早くこの○○女を○せ!」
エリカがボス部屋に入ると、そこにはとんでもない惨状が広がっておりました。
床に力なく座り込むデーモンさんは、なんだか見覚えのあるような人たちにいじめられておりますし、部屋の中なんてもっとひどいものなのです。せっかくエリカがデーモンさんにあげた家具たちは無惨にもボロボロになっていました。
クローゼットやベッドはバキバキに壊されていますし、壁紙なんてビリビリとそこら中が破れているのです。
しかし、そんなことよりもエリカにはもっと不快なことがありました。
それは、ピーピーと耳に痛い不快な電子音でした。
「ピーピーうるさいのよ!」
エリカは部屋に入っていの一番に叫びました。
エリカが叫ぶと、デーモンさんをいじめている人たちがエリカの方を振り返りました。見覚えのある人たち、それは薫と大介でした。
「あなたたち!」
ふたりの正体に気づいたエリカは「なにしてるのよ!」と叫びます。
「エリカ!」
直後、デーモンさんが勢いよく立ち上がり、エリカの元へ駆け寄ってきました。
「やめろ!」
そう叫んだのは薫でした。
どうやら薫は、デーモンさんがエリカを襲おうとしていると思ったようでした。焦った様子でデーモンさんに向かって大きな剣を振り下ろします。しかし、剣はポヨンっと音を立てて、デーモンさんの背中に当たる寸前で弾かれました。薫は「クッ!」とうめき声を上げて大きく仰け反りました。
「エリカ……!」
エリカの元へたどり着いたデーモンさんは、エリカを力強く抱きしめました。
「痛いわ……」
デーモンさんに抱きしめられたエリカは、デーモンさんの大きな胸とお腹と腕の中に押しつぶされて、苦しそうに身動ぎしました。
「あ、すまない……!」
デーモンさんは抱きしめていた腕を離して、エリカから一歩後退りします。
「いいのよ、でも……あなたたち!」
エリカは薫と大介に向かって指をさしました。
「そこに座りなさい!」
エリカにそのように言われたふたりは、困惑した様子で顔を見合わせると、お互いに首を傾げました。
「座りなさい!!」
三度エリカがそう叫ぶと、その声に驚いたふたりの肩はビクッと跳ね上がり、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、怒った様子のエリカを見やりました。そして、やがて渋々といったふうにその場に腰を下ろします。大介は体育座りで、薫はあぐらをかいて座りました。
「あなたもです」
エリカは目の前で突っ立っているデーモンさんを見上げると、眉間にしわを寄せた顔をして言いました。
「私もか?」
「当たり前です」
そう言われたデーモンさんはトボトボと歩いてゆくと、薫の隣にちょこんと腰を下ろしました。
エリカは腕を組んで三人を見下ろします。
「なぜわたしが怒っているのかわかる?」
3人は首を傾げて顔を見合わせます。すると、大介が「はい」とよい返事をして手を上げました。
「はい、あなた」
エリカは手のひらを差し出して発言することを認めます。
「はい、ぼくらが彼女のことを……その、いじめていたからでしょうか?」
大介は横目で一度デーモンさんを見やると、少し考える素振りをして言いました。
「そんなことはどうでもいいのよ」
「え?」
そう声を上げたのはデーモンさんでした。
「やられてばかりではダメよ、きちんとやり返しなさい」
「やり返したんだ……でも私は負けてしまった……」
「じゃあもっと強くなりなさい」
「はい……」
デーモンさんは力ない声でそう返事をすると、しょんぼりと肩を落としました。
「はい!」
次に手を上げたのは薫でした。
「どうぞ」
エリカは再び手を差し出して発言を認めます。
「私たちがうるさかったからか?」
「それもよ、でも1番は違います。部屋を見なさい、これは全部わたしがデーモンさんにプレゼントしたものです」
「?! この○○○みたいな部屋をか!」
「うるさい!」
「はい……」
エリカに怒鳴られた薫は、ビクッと肩を跳ね上げたあと、シュンとして小さく縮こまりました。
「こんなふうにするなら返してもらいます」
そう言ってエリカはポシェットから1本のタクトを取り出しました。
エリカがタクトをひと振りすると、部屋中にあるすべての家具たちが花や巻物にかわりました。
続けてエリカは、タクトを宙を描くように大きくふるいます。
すると、花や巻物が宙に舞い上がり、次々とポシェットの中に吸い込まれるようにして入っていきました。
「よし」
エリカは満足げな表情をすると、ポシェットを手でポンポンと叩きました。
「エリカ! 私はお前の村に行きたい!」
突然、デーモンさんがエリカに向かってそんなことを告げました。
そして、「案内してくれないか?」と続けます。
「ええもちろん、いいわよ」
エリカがそう言うと、デーモンさんはパーッと満面の笑みを浮かべました。
そして、デーモンさんは自身の首に巻かれたチョーカーについている鍵の形をした飾りを外すと、薫たちに向かって投げました。
弧を描くようにして飛んできたそれを、薫は危なげなくキャッチしました。
「それをやる」
「なんだこれは?」
「この城の鍵だ。この城のすべてをお前たちにくれてやる。だからもう私に関わるな」
そう言い終えたデーモンさんは少し悲しそうな表情を浮かべていました。しかし、一瞬だけ目を瞑り、もう一度開けた頃には、先程の表情はどこへやら、清々しい表情でエリカに向き直ります。そして、唐突にエリカを抱きかかえました。
「きゃっ! どうしたの?!」
「お前の村に行く! 案内してくれ!」
そう言ってデーモンさんはエリカを抱えて駆け出しました。
ボス部屋から飛び出して、エリカをお姫さま抱っこで抱きかかえながら、どんどんバタバタ、これでもかと自身の足を叩きつけるようにして階段を駆け下りてゆきます。
エントランスホールを真っ直ぐに突き抜けて正面扉の前に立つと、ゆっくりと取っ手を握りました。デーモンさんは自分がとても緊張していることを感じました。胸に手を当てなくてもわかるくらい、大きな心臓の音が体の中から聴こえてきたのです。
「はーふー」
デーモンさんは一度大げさに深呼吸をしました。
そうして、期待に胸を膨らませながらゆっくりと扉を開いてゆくのでした。




