幕間
そこはとある地方都市の住宅街、昭和モダンの様相を呈した一戸建てであった。ダイニングテーブルを挟んで壮年の男女が話し合っている。
「本当にエリカをあの世界に行かせるつもりかい?」
男は心配そうな顔をして女に問いかけた。
「ああ! 何度も言っただろーそう心配するようなことはないって!」
女は腕を組んで椅子にもたれかかる。
「そんなこと言われてもさ~心配だよ~……」
男はテーブルに突っ伏して、女に縋るように言った。
「おいおい! 私のAIちゃんを舐めるんじゃないぞー! 心配事なんて何一つない!」
女はバンっとテーブルを叩いて男に顔を寄せると「フンっ!」と鼻息荒く言い放った。
「君のAIシステムがすごいことはぼくが1番よく理解しているよ。それでも心配なんだ……自信はあるのかい?」
「当たり前だ! 自信100%だ! 私と私のAIちゃんを信じろ!」
女は腰に手を当てて、ふんぞり返って言った。
「……でもなぁ」
「でもじゃない! 偉い人はこんなことを言いっている!」
そう言って、女は人差し指を顔の前に掲げる。
「かわいい子には旅をさせろ!」
「旅先が野蛮すぎるんだよ……」
男は両手で頭を抱えて項垂れた。
「君のAIシステムについてもう一度説明してくれるかい?」
男は両腕の隙間から除くように女の顔を見上げると、懇願するようにそう言った。
「何度も説明しただろー! 仕方ないなー……これで最後だぞ?」
「ああ」
女はつらつらと、自身の作った件のAIシステムについて説明を始める。内容は次のようである。
ゲームにはレーティング制度(年齢制限)が存在する。それは従来のテレビゲームの時代から存在しており、フルダイブ型VRゲームのリリース以降、より一層重要視されるようになった。
それは、プレイヤー自身がゲームの世界に入り込み実際に体験するという特性上、心身に甚大な影響を与えることが危惧された為である。
そのため、フルダイブ型VRゲームは従来のゲーム以上に、より厳しく取り締まる必要があった。
レーティング制度によって定められた年齢制限に満たない者の、ゲームソフト及びアプリの購入を禁止することを始めとして、ログイン時に求められる個人情報の入力。ヘッドマウントディスプレイ型ゲーム機の身体スキャン機能による身体情報の登録。そしてそれは個々のゲームソフト、またアプリ内部のシステムにも及んだ。
すべてのフルダイブ型VRゲームのソフト及びアプリには、ある一つのAIシステムを実装しなければならないことが定められている。
そのAIシステムは、未成年者に悪影響を与えないための手段であり、また、年齢制限が設定されているゲームに於いて、個人情報の入力や身体情報の登録などを以ってしても、その年齢制限に満たない者のゲームのプレー(ログイン)を防げなかった場合に於ける最終手段であった。
「そしてそのAIシステムを作ったのがこの私だ!」
女は三度腰に手を当てて胸を張った。
男は静かにパチパチと拍手をして女に賛辞を送る。
実装が定められたAIシステム、それはゲーム内部の監視ツールといえるものであった。
AIシステムは全ての未成年者及び年齢制限に満たない者がゲームをプレー、またログインしたときに自動的に起動し、監視対象者(対象プレイヤー)を常時、監視し続ける。
そして、対象プレイヤーの知覚内に於いて、レーティング制度の規制項目に該当する表現が起こらないかどうかを観察し、都度規制する。
レーティング制度によって定められた規制項目は次のようである。
1.セクシャル:裸、下着や水着。また、肌の露出が多い装いなどの過度な露出表現。
2.暴力:喧嘩、虐待、拷問、武器類を使用した戦闘、対戦格闘などの暴力表現。
3.恐怖:出血や死体、過度に恐怖感を煽る表現。
4.飲酒、喫煙:飲酒、喫煙、また、それを推奨する表現。
5.ギャンブル:金品の賭け、違法なギャンブル行為の表現。
6.犯罪:殺人や強盗、法に反する犯罪行為の表現。
7.違法薬物:麻薬、覚醒剤、ドラッグ、それら違法薬物の使用、または取り引き、推奨や肯定する表現。
8.言葉:差別用語、放送禁止用語、不快な言葉の使用。第三者への暴力的、差別的発言の表現。
以上、従来のレーティング制度を踏襲した8項目の表現において、AIシステムが監視対象者(対象プレイヤー)の知覚内で起こる事象を分析、予測し、規制する。
「つまり……?」
「つまり、こういうことだ────」
────エリカの知覚内に於いて、レーティングA(全年齢対象)に違反するすべての表現は、
規制される────。




