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「かわいいな!」
エリカとデーモンさんは大階段を上がった正面の部屋にいました。
不気味な彫刻が施された大きな扉の部屋です。
そこはデーモンさんの私室であり、ボス部屋と呼ばれる部屋でした。
玉座だけが置いてあった簡素な部屋は、部屋一面がピンクや白で染まっており、随所にハートが散りばめられていました。
ラブリーな壁紙にラブリーなラグ、ラブリーなソファーにラブリーなチェア、ラブリーなテーブルにラブリーなベッド、クローゼット、ドレッサー、ハート型のふかふかクッション。
もちろん、エリカが模様替えをしたのです。
「そうかしら?」
エリカはデーモンさんの「かわいい」という言葉に首を傾げました。自分で模様替えをしたにも関わらず、エリカはお気に召していない様子です。
「エリカはそう思わないのか?」
「わたしハートって苦手なのよね。 だから全部あげるわ」
つまり、エリカはただ要らないものを押し付けただけなのです。
「そうなのか……」
デーモンさんはエリカの言葉を聞いて、しょんぼりと肩を落としました。
「手触りがとても気持ちいいな……」
ふわふわ起毛のハート型ラグに座っていたデーモンさんは、ラグをサラサラと撫でます。そして、ラグの上に置いてある、これまたハート型をしたフカフカなクッションを持ち上げました。
「ハートは私の尻尾の形に似ている。 私専用か?」
そう言ってエリカにお尻を向けると、フリフリと尻尾を振って尋ねました。確かに、尻尾の先はハートを頭から突き刺したような形をしておりました。
「ああ〜、確かにそうね! あなた専用よ!」
エリカは適当に返事をしました。
「そうか!」
エリカの返事を聞いて、デーモンさんは嬉しそうにハート型のクッションをギューッと抱きしめました。
「まさかそんなにも喜んでもらえるとは思わなかったわ、正直あなたには似合ってないもの。もっと別のものにしましょうか?」
「これでいい! いやっ、これがいい!」
「あら、そうなの……」
デーモンさんは「私はこれが好きだ……」と抱きしめていたクッションに頬を擦りつけて言いました。
「趣味が悪いのね!」
エリカはさっぱりとした笑みをたたえて言いました。
それを聞いたデーモンさんは、三度肩を落とします。
エリカはとても正直な性格をしておりました。気のおけない相手には、思ったことがつい口をついて出てしまうのです。本人にまったく悪気はないのですが、学校でまったく友だちができないというのも頷けるものです。
「でも、やっぱり私はこれが好きだ……」
デーモンさんはもう一度クッションを胸に抱くと、上目遣いでエリカに訴えました。
「あら、いいじゃない。自分の気持ちを大事にするのはいいことよ」
エリカは笑顔でそう答えました。
「自分の気持ち……」
すると、デーモンさんはクッションを抱えながら何やら考え込んでしまいました。
エリカはそんなデーモンさんの横におもむろに腰を下ろします。そして、ポシェットに手を入れて一輪の花を取り出しました。エリカがその花をふわふわ起毛のラグの上に置くと、花はポンッと音をたてて赤い屋根のドールハウスに変わりました。
「あなたネコさんね」
「?」
エリカは唐突に、デーモンさんに人形遊びを持ちかけました。しかしながらデーモンさんは、わけがわからないというように、クッションに顎をのせて首を傾げ、キョトンとした顔をしていました。
エリカはドールハウスに付属していたウサギさんの人形を左手に持って、芝居をはじめます。
「ねーママー! またアタシの服、お父さんのパンツと一緒に洗ったでしょー!」
「……?」
困惑して黙りこくるデーモンさんに、エリカはとんとんと肘でついて催促します。そして、ネコさんの人形をデーモンさんの目の前に持っていきました。
「あー、えーっと……。そうだがー!」
デーモンさんはネコさんの人形を手で持って、エリカの真似をするように芝居をはじめます。
「なんでよ! パパのパンツと一緒に洗わないでって言ったじゃない!」
「なぜだ!」
「汚いからに決まってるでしょ!」
すると、エリカは右手にクマさんの人形を持って、またまた芝居を始めます。エリカは一人二役のようです。
「ねー! ボクが大事に取っておいたバニラモナカ! なくなってるんだけどー!」
「えー……。そんなものは知らん!」
「ババぁ! まさか! 食べやがったなー!」
「そうかもしれん!」
「許せねー! もうこんな家出て行ってやるぜ!」
「なぜだ?!」
「私もよ! もうこんな家出て行ってやるわ!」
「待ってくれ! 私が悪かった! 頼むから出て行かないでくれー!」
二人はそんなふうに、それから小一時間、人形遊びを楽しみました。
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ぐ〜
ふたりが人形遊びを終えると、ラブリーな空間にこれまた可愛くて軽妙な音が鳴り響きました。それはエリカのお腹の音です。
「わたしちょっとごはんを食べてくるわ」
そう言ってエリカはラブリーなベッドの上に寝転がると、目を瞑り、深い眠りについたのでした。




