幕間
「かわいい〜!」
陽葵は端的に言ってしまえば嫌な女であった。
陽葵の兄は蒼と蓮の大学の先輩であり、蒼と蓮が決して逆らえない相手であった。そのため陽葵はことあるごとに兄を盾にして二人を尻に敷いているのだ。
「ねーねー! この子仲間にしようよ〜!」
「なんだこのふざけたやつは? 嫌だね」
「報酬の分け前が減っちゃうだろ?」
「え〜! 兄さんに蓮と蒼にイタズラされた〜! って言っちゃおうかな〜?」
今だって、「見た目がかわいいから」なんて理由で、出会ったばかりのプレイヤーをパーティに入れたいだなんて無理を言っているのだ。
「ぐっ……お前……! それは洒落になってねぇぞ……!」
「絶対そんなこと言うなよ! 嘘でも俺たちが殺されちまう!」
陽葵が蒼と蓮のパーティに入ったのだって、わがままを言って無理矢理入れてもらったのだ。いや、入れさせた、と言った方が正しいだろう。
「黄色いポシェットを首から下げた小さな女の子なんだけど。どこかで見なかった?」
当のプレイヤーはどうやら尋ね人がいるようであった。とても焦っている様子だ。
「薫さんが連れてた子じゃね?」
「あぁ、そういえばガキがいたな」
「あー! あの子かー! 知ってる知ってる! I know!」
三人はその尋ね人に見覚えがあった。薫というプレイヤーがBARシーサウンドに連れてきてた子だと。
「本当?! どこにいたのか教えて!」
プレイヤーは胸の前で短い手を合わせて、藁にもすがるように懇願する。
「仲間になってくれたら教えてあげるんだけどな〜?」
陽葵は上目遣いで甘えるように条件を持ちかけた。
「仲間……って、友だちになるってこと? それなら別いいけど……」
「本当?! やったー! いいって! アゲー↗」
「あげー?」
「違う違う! アゲー↗」
「あげー↗」
「そうそう! アゲミ天満宮〜↗」
「あげみてんまんぐー↗」
「あはははは!」
プレイヤーがぎこちなく自分の真似をしているのを見て、陽葵はお腹を抱えて笑う。
「仲間にするのはいいけど、お前が面倒みろよ」
「俺たちは何もサポートしないぞ」
「おけおー!」
二人の忠告に陽葵は指でオッケーサインを作って答えた。
「じゃあ、シーサウンドに行くついでにもう一度呑み直そー!」
そう言って陽葵はそのプレイヤーの腕にギュッとしがみつくと、BARシーサウンドに向かって一緒に歩きだした。
「おい待て! 金策は?!」
三人は、今から残機を上げるための金策に出かけるところだったのだ。
「親睦会しなきゃでしょー! 二人でやっといてくれるならそれでもおけみー!」
陽葵は二人を振り返って再びオッケーサインで返事をした。
「ちょっと待ってよ! どこにいるか教えてくれるんだよね?!」
「だから〜! 今から私が連れて行ってあげるんでしょー!」
「そこにいるの?」
「さっきまではいた〜!」
そんな会話をしながら歩いていく二人を見て、蒼と蓮はやれやれとため息をついた。
「わがままな女だ……。まあ、あいつがいないほうが金策も捗るか」
「そうだな。それにしても……キグルミ装備なんてネタ装備がSTELLAにもあったとはな」
「ああ……」
蒼と蓮の二人は暫くの間、離れていく陽葵とクマのキグルミを見送っていた。