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第3話 (完)

 ダンジョン7層。ここが今回のダンジョンの最下層。ラスボスが居る層だ。

 この最下層のボスは、デュークスケルトン。スケルトン公爵ということか。何でも馬に乗った骸骨騎士で、かなり強いらしい。


 二日酔い戦法は何度もやる戦法じゃないと分かったので、1日かけて酔いを完全に覚ました。

 というわけで今回の戦法は、オーソドックスな「一撃受け戦法」だ。ボス戦までにダメージを貯めて、出来るだけ瀕死に近い状態までもっていけば、負けることはないだろう。7層は魔物も強力だが、致死ダメージの攻撃さえ避けることを心がければいい。


 体調はいまのところ万全。・・・が、少し気がかりな所がある。歯が痛い。

 場所は左の下の奥歯。なんだか昨日からシクシクと痛み出したかと思うと、今日は更に痛みが増してきた。しかし、この虫歯も我が相棒の糧になるかと思うと悪い気はしない。

 俺は痛む歯を気にしながら7層を進む。


 歯が痛い。

 歯が痛い。

 歯が痛いことがこんなに苦痛だとは思ってもみなかった。まず剣を振るう時に、歯を噛みしめることが出来ない。歯が噛めないと力が出ない。無理に噛むと激痛が走る。最下層で力を出せないとちょっとやばいかもしれない。


 しかし、いいこともあった。虫歯の時の相棒の効果がわかったのだ。それは『毒』を付与する効果。

 剣で少し傷をつけると、魔物はすぐに苦しみだし、泡を吹いて倒れてしまう。典型的な毒の症状だ。

 うーむ、虫歯が毒の効果をもたらすとは、この相棒まだまだ底が知れないな。頼もしいぞ。歯はどんどん痛くなってきたけど。


 一撃受け戦法でのダメージも蓄積されてきた。また毒の効果もあるので、7層と言えどもその進みは速かった。



 ほどなくラスボス部屋に到着。

 高さは10mはあろう、荘厳な彫り物や装飾が施された扉の前に立つ俺。


 俺の姿を見てくれ。頭から血がにじんで流れ、ほぼ全身打撲で傷が無いところはないほど。まさに満身創痍の状態だ。

 フフ、いいぞ、最高の状態だ。わが相棒も今まででMAXといえるくらいの力を感じる。剣身は紫色の光を放ち、柄の装飾も禍々しいくらいに豪華だ。・・・虫歯の影響だろうか?

 だがこの相棒なら負けるはずはない。俺は勝利を確信しながら、ラスボス部屋の扉を開けた。


 扉の先には闘技場のような広間があり、そこに一体の魔物が静かにたたずんでいた。

 その魔物は、全身を鋼鉄の鎧で覆い、角の付いた兜をかぶり、黒いマントを羽織って、漆黒の馬に乗っていた。そして顔はスケルトン。間違いなくダンジョンのラスボスだ。敵の自分が見てもカッコ良くって強そうだ。


 俺は若干の緊張と大いなる闘志をみなぎらせながら扉を進み、その闘技場に入る。


『よく来たな、挑戦者よ。我は久しく待っておったぞ。』


 頭の中に声が響く。このラスボスは魔物の格も高いらしく、言葉をしゃべるようだ。


『我が名はデュークスケルトン。このダンジョンの主だ。貴殿の名は?』


俺は名を手短に答えた。


『クラウスか。汝の勇気をほめたたえよう。我、勝負に手加減をせぬ。貴殿と力を尽くして戦おうぞ。』


 公爵だか何だか知らないが、上から目線の物言い。何ともしゃくに障るが、口論しても始まらない。要は力を見せつければいいのだ。

 俺は、力が溢れんばかりに漲る相棒をちらりと見ると、ゆっくりと正眼に構えた。


『・・・ん、汝、見ると満身創痍ではないか。それでは我とまともに戦えぬだろう?』


 いいんだよ、これが俺の万全の体勢なんだ。余計なお世話だ。


『力が出せない相手と戦うのはつまらぬ。我は全力の勝負がしたいのだ。』


・・・なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。いやな予感がする。


『よって、我は貴殿を万全の状態に回復させてやろう。』


!!は、何だって。回復・・・ば、バカ、やめろ!


『ハイヒール!!』


 俺が叫ぶ間もなく、勝手に唱えられたハイヒールが俺を包み、みるみる回復していく。

 数秒後、包んでいた光が収まり、そこには呆然と佇む俺が居た。


 俺は恐る恐る体を確認した。あれほどあった傷や血糊がまるで最初から無かったかのように消え、打撲の痛みも無くなっていた

 そして我が相棒にも目を向けた。向けたくなかったが確かめざるを得なかった。

 そしてそこには、先ほどまでの禍禍しいオーラと装飾が完全に無くなった、なまくらの相棒が手の中にあった。


なにィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーー!!

バカヤロー!なんてことしやがるんだ。敵を回復するなんて正気か!?


『フ、騎士として、当たり前のことをしたまでだ。礼には及ばぬ。』


 勝手に回復しといて礼だと!?なに自己満足に浸ってやがるんだこの骨公爵。有難迷惑だってんだよ。


『さあ、お互い万全になったところで心行くまで勝負をしようではないか。』


 聞いちゃいねえ。コイツ全く聞いちゃいねえ。しかもそれで勝負だと。脳筋か!?筋肉なさそうなのに頭だけ筋肉か!?


『よし、準備が整ったところで、行くぞ!』


 それを開戦の合図として、骨公爵が突き進んでくる。

 ちょっと待て、俺の準備が整ってねえ。せっかく苦労して育てた戦法が台無しじゃねえか。・・・いや、敵としては相手の戦法を無効にするのは正しい。しかし、間違いなくヤツはそんな考えじゃねえ。ただ力と力で勝負して楽しみたいからやっただけだ。


 そんな間にも奴がすぐそばまで迫る。


 チクショー!!


 俺は言葉にならない叫びを心の中で吠えたのだった。


◇◇


 この戦い、結果から言うと俺の勝利だった。


 俺はこのようなまさかの時の為に、予備の剣を用意していた。この剣は・・・どこだったかのダンジョン奥で突き刺さって立っていたのを引っこ抜いて拾ってきた剣だ。最強の時の相棒ほどではないが、かなり高性能でいい剣だ。


 さすがにあの骨公爵相手になまくら相棒で戦っては間違いなく負ける。闘いの最中に少しずつダメージを貯めていく方法もあるんだが、さすがにあの魔物レベルの攻撃をまともに受けるのは危険すぎる。

 ということで、仕方なく今回は予備の剣を使って戦い、勝利した。


 しかしこの公爵、本当に強かった。馬を使っての機動戦、剣の腕も高く、またハイヒールで分かる通り魔法にも精通していた。予備の剣がもっと性能低かったらやられてたな。


 俺は倒れて体が消えかかっている骨公爵に、若干の敬意を込めた目を向けた。


『フフ、聖剣エクスカリバーの持ち主であったか。我が敵わぬのも道理だ。だが、良き戦いであった。』


 ん、せいけん?・・・、エクスなんたらとか言ってたか?この剣に名前が付いていたのか。しかも魔物であるコイツもそれを知っているほどとは。そりゃ高性能なのもうなずけるな。


『おぬしと闘えて我は満足だ。さらば我を倒した戦士よ。』


 骨公爵が最後の言葉を残して消えていった。

 なに一人満足して逝っちまってるんだよおい。俺はちっとも満足してないっつーの。満身創痍で絶体絶命から奇跡の力で逆転勝利、という男のロマンあふれるシナリオが台無しだよ。


 予備の剣で勝ったのは良かったが、こいつで戦うとドラマが無く圧倒的勝利しちまうんだよ。まるで『異世界からやってきたチートガン積み何でもできるイケメン野郎が、いとも簡単に敵をぶっ倒していく』みたいな感じで、少なくとも俺の趣味ではない。戦った後の満足感がまるで違う。

 やはり我が相棒はお前に限る。


 なにはともあれラスボスも倒したし、転移陣も出たし、魔石とドロップ品を拾って戻るとするか。

 あれ、そういえば虫歯・・・痛くない。どうやらあのハイヒールで虫歯も治ったみたいだ。虫歯は地味に痛くて嫌だったんだよ。それに傷とも病気ともつかない中途半端なので、普通の回復薬では治らないからな。虫歯を治してくれたことだけは素直に感謝しとこう。ありがとう。


 俺は虫歯が治った満足感に浸りながら転移陣に足を踏み入れ、ダンジョンを後にするのだった。


◇◇


 ダンジョンを出て、冒険者ギルドに向かう。

 すでにダンジョン制覇の情報が伝えられているのだろう。俺を見る好奇を含んだ視線と、噂話をする声とに囲まれながら、俺は冒険者ギルドに入った。


「クラウスさんですね。ダンジョン制覇おめでとうございます。」


見目麗しい受付嬢が、作り笑いだとしても完璧な笑顔で応対する。

俺はフッとニヒルに笑むと、デュークスケルトンの魔石をカウンターに置いた。


「!大きいですね。間違いなくデュークスケルトンの魔石です。このダンジョン制覇は7年ぶりの事ですよ。」


 ダンジョンボスは倒してもまた復活する。今後もボス討伐を試みる者たちが現れるだろう。ヤツはそれを待ちわびているはずだ。

 今思えば、ヤツにはヤツなりの美学というものがあった。強いものと正々堂々と戦うという美学が。

 その美学は俺の美学とは相容れないものだったが、その気持ちは少しだけわかる気がする。俺は、今は消えていなくなった強敵に向けて少しだけ微笑んで、すぐに笑みを消した。


「しばらく街に滞在なさいますか?」


受付嬢が若干の期待を込めて問う。ギルドとしては強い者を街に留めておきたいのだろう。その気持ちはわかる。


 しかし、俺は彼女に”否”と答えた。

 俺は冒険者だ。まだ見ぬダンジョンへ行き、攻略することが生きがいだ。一つの街にとどまることはできない。

 俺はすぐにこの街を去ることを告げると、魔石などの換金代金を持って、カウンターに背を向け歩き出した。


 宿で荷物をまとめ、次の街へ向かう馬車乗り場へ歩いていく。

 途中、相変わらず俺を見る好奇を含んだ視線に囲まれ、かすかに耳に入る程度の音量の話声が聞こえてくる。何を話しているのかわからないが、この俺のヒーローぶりを称える話なのだろう。実に気分がいい。

 声をかけるほどの勇気のない人たちの、噂話に形を借りた暖かい声援に、俺は気分よくこの街を後にすることが出来るだろう。



『あの装備、やっぱりあの人だわ。』

『え、何々?』

『10日くらい前に顔を腫らしたまま歩いていた冒険者が話題になったでしょ。その冒険者って彼に間違いないわ。装備が一緒だもの。』

『え、あの「女を巡って喧嘩して一方的に殴られた冒険者」って、彼なの?』

『うわ、ダサーい。本当にダンジョン攻略したの?』

『酒場で酔っぱらってダウンしたって話も聞いてるし』

『・・・なんだか幻滅ね』



 俺が馬車に乗り込むと、すぐに馬車は走り出した。

 馬車の中には3人の男女が座っていた。男の1人は老人。もう1人は20前後の若者。女性は50くらいの中年。

 彼らはお互いに無関心なのだろう。喋るでもなく、眺めるでもなく、ただ座っている。

 それもいい。何の詮索もされず、ただ静かに進む旅も良い。


 馬車は街の門を抜け、街道を進んで行く。

 俺は街を振り返らなかった。ヒーローは振り返らない。ヒーローは常に前を向いて行く。

 果たして次の街は、次のダンジョンはどのようなものだろうか。果たして、次は理想のヒーローになれるだろうか。

 俺は馬車に揺られながら、未来に思いを馳せ続けていた。


        体調不良の英雄(ヒーロー)と呪いの魔剣  完。


お読みいただきありがとうございます。楽しんでいただけましたでしょうか。

自分はもう1篇、作品を投稿しています。

こちらは普通(?)の異世界ファンタジーです。(連載中)


「未来の賢者ロディの間違い探し冒険譚」

https://ncode.syosetu.com/n4416hy/


ついでに読んでいただけたらうれしいです。


灯火楼

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