#2.彼の最悪の物語
ここは魔道具の開発に力の入れている国、〈エレバナ魔導国〉である。そこに住む青年がいる。日々魔法の練習、魔道具の勉強に励んでおり、いつか両親が働いている国の直属の研究所に研究者として勤める事を目標に頑張っている。
「なるほど…火の属性が燃えるのは空気中の酸素を一部利用して、そこに魔力を込める事で発動しているのか…では水は…」
彼はいつもの様に机に向かい、魔道具の原理を自分なりに研究を行なっていると家に連絡が来る。それは彼の母であった。
『ちゃんとご飯食べた?研究ばかりじゃ体壊すわよ。』
「大丈夫だよ、母さん。今日は何時に帰るの?」
『まだかかりそうなのよ。ごめんね。』
「いいよ、頑張って!」
彼と母との会話は、これで最後になった。
〜魔道具開発秘密研究所〜
息子とのいつもの生存報告も兼ねた電話が終わった。今は国が触れてきた禁忌と言われる研究に取り組んでいる。旦那と私、他にも国王直属の研究者の人達と行なっているが、正直、中止したいと考えている。
「あなた、本当に止めなくてもいいの?」
「仕方無いよ…これで辞めても、どうせ誰かが進めるんだ。他の人には…こんな研究、任せられないよ。君は、逃げてもいいんだよ。」
「逃げたって一緒よ。それに…私が逃げたら、あの子はどうなるのよ。私も一緒にいるわ。」
この国はイカれてる。逃げようとしたら家族もろともこの国から姿も形も消されてしまう…まぁ、国の国家機関に勤めていない人達には関係の無い話だろうけど。
[緊急:魔道具の安定値が不安定。至急停止して下さい。]
デバイスに緊急メッセージが届いたが、そんな予兆は無い。旦那の方に目を向けると、
「マリー!逃げr」
血相を変え私を突き飛ばしたところで、辺りが真っ白になった。
私の記憶はここで止まった。
〜少年の家〜
大きな爆発と地鳴りで、家の窓が割れた。少年は驚き、外を見る。そこに見える景色はとても綺麗で、とてつもなく最悪の結果が目の前に見える。
「………へ?」
研究所が赤く燃え上がり、黒煙がキノコ雲となり上へ上へと上がっていた。それはまるで大規模魔法の失敗が招いた結果の様にも見える。
魔術の失敗、それは普通なら起きない。魔術を込めた魔石の誤作動による失敗は存在するが、それも脱法行為によって作られたもののみに確認されている。それ以外は、神の裁きと言われる。
「嘘だ…嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼の精神は、神によって潰されてしまったのだろう。彼は家から飛び出し、金切り声を上げ、研究所に走る。だが、この現状は現実である。幻覚魔法でも薬による幻覚でも、夢でも無い。
現実である
彼の名は『トート・パナケイア』
最愛で最高の家族を失った悲しき青年。彼の物語はここで始まった
#3.彼女の怒りの物語 へ続く