死んじゃった。
家族旅行の帰り、わたしは死んじゃった。
運転席のお父さんはとばしているな、助手席のお母さんはいい年こいてはしゃいでいるな、後部座席で並んで座ってる弟はゲームばかりやって暇そうだな、山だな、川だな、狭い道だな、カーブだな、カーステからは尾崎だな、トラックだな、と思ったら一瞬。それで終わり。
気がついたら家にいた。
何で自分が死んだか分かったかというと、何にも触れなくなっていたからなの。なんとなくジュースでも飲もうかと冷蔵庫をあけようとしたらスカッって手が突き抜けて呆然。スカッスカッて何度やっても突き抜けるの。じゃあ他のはって自分の部屋に飛んでいって、誕生日に買ってもらった一番お気に入りのぬいぐるみを抱きあげようとしたの。でもスカッスカッって、何度やっても冷蔵庫と同じ。二番目にお気に入りのぬいぐるみも、三番目にお気に入りのぬいぐるみも、どれも駄目、抱きしめることがなきなかったの。
何だか悲しくなっちゃって、わたしは声を出して泣いちゃったの。もう小学生だっていうのに、幼稚園生みたいにいっぱい泣いちゃって。だけど泣いても泣いても疲れなくって、そのうち、あー自分は本当に死んじゃったんだなって思ったの。そうすると涙も止まって、だけどしゃっくりは止まらなくって、わたしはそのまま家の中を見て回った。今考えるとそんなので死んだんだって自覚しちゃうんだから、人ってわからないものね。ってわたしはもう人じゃなくてユウレイだけど。私みたいのってジバクレイっていうんだっけ。
お仏壇がおいてある部屋にいくと、お母さんがお仏壇の前に座って泣いてた。大好きなお母さんのそんな姿を見てると、私もまた悲しくなっちゃって、お母さんに抱きつきたかったけど、スカッってなるのが怖くて、何にもできなかった。お父さんはいつのまにかテレビのある部屋にいて、ぼんやり座ってた。そういう時はいつもお酒を飲んでいるのに、今日はただぼーってしてるだけで、何も飲んでいないの。弟は日の当たる縁側に腕を枕に寝ていた。
どうやら死んじゃったのはわたしだけみたいだった。
素直にいうとね、みんなだけ生きててズルイって思っちゃった。美味しいジュースを飲んだり、可愛いぬいぐるみ抱きしめたり、大好きなお母さんに抱きしめられたり、みんなだけそういうことが出来るんだって。
でも、そんな気持ちはすぐにどっかに行っちゃった。だって、みんなは生きているから。これからいっぱい笑って、いっぱいはしゃいで、いっぱい泣いて、そうやって幸せになれるから。生きていれば幸せになれるから。そう思うとこれでよかったのかな、って思ったの。自分が死んじゃったのは残念だったけど、みんなが幸せならそれでいいかなって。そう思えたわたしは、ちょっとだけ大人かな。
そこうしてると辺りがぼんやりしていくの。冷蔵庫も、お仏壇も、テーブルも、縁側も、最後には全部なくなっちゃった。あたりは真っ白で、前のほうには光が見えるの。それはわたしを呼んでいるようで、誘われるまま歩いていくと、それは超光ってるの。ハゲ山先生ってあだ名の藤山先生の頭より超光ってるの。
光の前に立つと、あーこれで終わりなんだなって分かって、またわたしは泣いちゃった。しんみりしちゃった。
「あれ、あんた何でここに居るの」
聞きなれた声にビックリして振り向くと、お母さんが立ってた。お母さんもわたしに負けないぐらいビックリしていた。
「わたし、旅行の帰りに死んじゃったんだよ」
「なんだ、あんたも死んでたの。でも、私だけじゃないのよ」
そういうとお母さんは背中に隠れてた弟を引っ張り出した。
「親子三人で死んじゃうなんてね……生き残ったのはお父さんだけか」
チッと舌打ちを打つ母さんをよそに、私は弟の頬をつついて遊んでいると、なんだか楽しい気分になってきた。
「もしかして、泣いてるところ見てた?」
たぶんお仏壇でのことだろう。なんだか悪いことをしちゃったようで、わたしはは控えめにうなずいた。
「なら言ってくれればよかったのに。お母さん恥かいちゃったじゃない」
「やぁやぁ揃ってますね」
その声に親子三人振り向くと、今度はお父さんが何時もの調子でやってくるところだった。
「お父さんどうしたの?」
驚くお母さん。
「俺も死んでじゃったんだよ」
カラカラと笑うお父さんは、「うちは死ぬ時も仲良しさんだな」などと呑気なことをいっている。
「馬鹿なこと言わないでください、ちゃんとあなたが運転してれば」
「まぁまぁ、こうなっちゃったからにはいいじゃないか」
お父さんは私と弟を見ると、優しく頷いた。
何だかそれだけで、私は幸せな気分になった。
「さあ行くか」
お父さんの声に、私たちはみんなで手を繋いで、光の中に入っていったの。




