72.あなたの初めてのパートナーになりたかった。
一歩踏み込んだ途端に、晴れやかなファンファーレが鳴らされ、拍手が湧き上がりました。
盛装した男女の視線が私とオーウェンに注がれます。
(え、なに……??)
私は驚きのあまり声も出ません。
この待遇は舞踏会のメインゲストにだけ許されるもの。
私はゲストとしては末席の侍女のはずです。
「オーウェン??」
私はどうして良いのか分からず、オーウェンの腕を握り締めます。オーウェンは落ち着き払い、
「俺がいるから大丈夫だよ。前を向いて。ダイナ。今日の主役なんだから堂々としてればいいんだよ」
「え、しゅ…主役??」
どういうことでしょう?
「今夜は俺たちの婚約式だよ」
「こ、婚約式???」
ヘリフォードの貴族と富裕層には、婚約した後、近しい人達に婚約を披露する式を行う習慣があります。
結婚式ほどではないですが、盛大に行われるのです。
けれど。
(サ……サプライズすぎよ。これ……)
王室の離宮でのシークレット舞踏会が、まさかの自分の婚約式だっただなんて!
あり得ないでしょう!!
6回目の人生で暗殺された時と同じくらいの衝撃です。
「さぁ行こう。カイル殿下と妃殿下にご挨拶差し上げないと。ダイナ?」
「あ。うん……わかった……」
私はオーウェンに導かれゆっくりと歩き出しました。
招待客が自然と左右に分かれ、道を作ります。
道の奥、一段高い場所に据えられた玉座に、カイル殿下とイーディス様の姿がありました。
私は笑顔(もうほんとビジネス用の笑顔ですよ……)を作り、前を向いたままオーウェンに話しかけます。
「オーウェン、この事なんで教えてくれなかったの?」
「イーディス様のご提案なんだ。秘密にしようって。あと婚約式をダイナが負担に思うのは避けたかった」
婚約式は両家の両親が諸々を用立てて行うものです。
我が家は貧乏ですので、婚約式などできません(どうしてもお金がかかりますから)。
ただライトの方は立場もありますし、近いうちにしなきゃいけないだろうなとは思っていました。
思っていましたけど!
こんな形で成されるとは思いもよりませんでした。
「ライトの家でやれば良いじゃん。こんな大袈裟にしなくても……」
「俺の力不足でさ、その辺は謝るよ」
お祖父様に結婚の承諾はなんとか取り付けたものの、いまだにライト家内を完全に掌握できていないオーウェンに、ライト家所有の邸宅で婚約式を行うことは許されなかったのだということです。
「だけどね、どうしても婚約式は行いたかった」
ダイナのデビュタントのパートナーに絶対になりたかったから、とオーウェンは頬を赤らめます。
そこでトラジェット公爵となられたカイル殿下とその奥様であるイーディス様に証人となっていただき、この避暑離宮で婚約式を行うことにしたのだそう。
忙しい仕事の合間を見て、密やかに両殿下に何度も相談しながらここまで進めてきたと、オーウェンは語ります。
「結婚する前にダイナの夢を叶えてあげたかったんだ。社交界デビューのね」
「オーウェン……」
いじらしい。
なんていじらしいんでしょう。
加えて可愛い!
イケメンなのに、こうロマンティックなことしちゃうなんて。
おかげで怒る気もなくなりました。
「あぁもう。いい、オーウェン。報告は大事なんだからね! こんな大切なこと、秘密にすることなんてなかったのに。次からは無しよ?」
「……許してくれるんだ?」
「許すも何も。私はあなたのことは、最初から全部信じているもの」
こんなに私のことを考えてくれる人なんて、家族以外ではそうはいないでしょう?
なので、それだけで嬉しいです。
何よりも大事にしてくれていると気づかさせてくれるというだけでも、かけがえのない存在なのですから。
「大好きよ、オーウェン」
私はオーウェンにだけ聴こえるように囁きます。
オーウェンはチラリと目だけ動かし、顔を真っ赤にして頷きました。
あぁほんと幸せです。
本日2度目の更新です。
最終話なのですが長くなりすぎたので2話に分けました。
次は今日中に上げれればいいのですが!
がんばります。
では次回も必ずお会いしましょう!




