66.好意の裏にあるものは?
私のお仕えしているイーディス様は、ドラジェット公爵カイル殿下の妃殿下でいらっしゃいます。
王族の一員ではあるのですが、夫君のカイル殿下が現国王の第四王子ということもあり、政治的にはさほど重要な地位にはありません。
ですので、平素でも他の王族の方に比べると公務は多くはありませんでした。
そして今。
この首都から遠く離れた避暑地にいらっしゃる……ということは、ほぼ公務がない!(意訳:侍女としても気楽に過ごせる)のです。
つまり、公務以外のこと=社交にだけ集中すれば良いというお気楽ご褒美期間です!
え? リゾート地なのになぜ社交? って思うでしょう?
リゾートだからこそ社交なのです。
ここは富裕層に人気の高級リゾート。ですので、上流階級の方々がわんさかいます。
上流階級の方は基本有閑。
そんな彼・彼女が集うと起こることと言えば、一つしかありません。
社交場におけるマウンティングです!
首都に戻っても影響力を失わないように、毎日、どこぞのお貴族様のお屋敷で午餐・晩餐会……と繰り広げられているのです。
この辺は首都と変わりませんね。
せっかくのリゾートなのにがっかりだと思うのは庶民だからでしょうかね。上流階級の方のお考えはよくわかりません。
そして我が主人のイーディス様です。
王族であるイーディス様はこのリゾート地でも最高ランクですので、色々なグループからお声がかかります。
誰でも虎の威は借りたいもの。
数多の貴族がイーディス様とカイル殿下のご機嫌取りで近寄ってきます。
カイル殿下もそうですが、イーディス様もとても聡いお方ですからね、そういう輩は上手く躱されますが。
その代わりにどこのグループにも所属せず、どのお誘いにも公平にお顔をお出しになられるのです。
ですので侍女として準備はそれなりに大変です。
まぁ“しきたり“の多い公務ではないので、楽ですけどね。
しかも今回はイーディス様のご厚意で、お仕えする全ての侍女がこの旅に同行しています。
仕事ちょっぴりなのに、人手はあまりまくりな状態な訳です。
ナンバー2の侍女である私の仕事も、ほんの少し。
イーディス様のスケジュール管理程度です(しかもカイル殿下と二人で過ごされることも多いので管理もすることがなかったりします)。
「おかえりなさいませ。イーディス様」
私は朝の散歩から戻られたイーディス様に、暖かいミルクティを差し出しました。
「本日はアドラム伯爵邸で14時よりティーパーティがございます。ドレスは淡いローズピンクのものでよろしいですか?」
「ローズピンク……。気分じゃないけど、顔色はよく見えそうね。それにするわ。ところでダイナ。持ってきたデイドレスは一通り着たわよね? もう残りは少ししかないのではなくて?」
イーディス様はお茶を口に含みながら、首をかしげられます。
貴族階級のファッションリーダーでもあるイーディス様です。衣装選びは慎重に行われます。
最近結婚されたこともあり、常に注目されている存在ですので、社交時の衣装には気を使います。
外野対策で一度着たドレスはしばらくは身につけることはできませんし、TPOに合わせることも大事です。
避暑に向かう際に首都から大量にドレスを持ってきているとはいうものの、毎日のように招待されていてはネタが尽きてしまいます。
あと別邸のクローゼットのドレスも1週間分、といったところです。
「左様でございますね。来週からは手直ししたものを、お召しいただくことになります」
「うーん。アドラム伯爵のお誘い、キャンセルするわ。ドレスを仕立てに行きましょ。ここにラファイエットの支店があったでしょう? 午後から行くわ。連絡しておいてちょうだい」
「かしこまりました」
イーディス様は満足そうに頷かれました。
で。
ラファイエット衣装店の支店に来たわけですが!
「首都と同じ店じゃないの」と私は思わず呟いてしまいます。
なぜなら本店と変わらない規模の店がまえがそこにあるのですから!
大理石の支柱が並ぶエントランスに、厚いオークの扉。
お仕着せを着たドアまんまで。
そっくりそのままです!
リゾート地に首都と同じ店舗があるだなんて思いもよりませんでした。
貴族相手の商売ですから、高級感重視したのでしょう。さすが商売人。
私たちの姿を認めたドアマンが恭しく扉を開けます。
イーディス様が一歩店内に入ったとたんに、全ての従業員が直立し、深々と頭を下げました。
黒服の支配人がにこやかに進み出ます。
「お待ちしておりました。公爵夫人。お久しぶりでございます」
「あら。あなた。……ここの店に移動になったの?」
「いいえ。この時期だけの出張でございます。本日はいかがなさいますか?」
イーディス様は顔見知りの支配人と何やら小声で打ち合わせをなさります。
侍女は店に入ってすぐのところで待機させられているので、何をおっしゃっているのかさっぱり聞こえません。うーん、歯痒い。
するとイーディス様が振り返られました。
「ちょっとあなたたち。こちらへいらっしゃい」
と侍女一同(総勢五人)を呼びつけます。
「あなたたちも採寸なさい。一緒にドレスを誂えましょう」
「え、本当ですか! イーディス様!」
侍女から歓声が上がります。
だって、ラファイエットのドレスは最高級品。
いつか私をいじめていた腰掛け侍女のアンナさんが、ことあるごとに自慢していたブランドです!
侍女勤めの給料では買うことはできません。私も一着も持っていませんもの。
そんな高級品を皆にプレゼントって!
さすがイーディス様、召使いにもご慈悲を下さるなんて。
ほんと最高のご主人様です!
66話をお送りします。
ブックマーク、とてもたくさんのPVありがとうございます。
すごく嬉しいです。
完結までもう少し、最後までぜひお付き合いくださいね。
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