59.答えは一つだけ。
甘いかも?
『私が必要だ』
その言葉をオーウェンの口から聞けただけで、もう平気です。
この先何年でも、オーウェンを信じていけます。
不思議なことに好きな人のたった一言で、心の空虚感もネガティブな感情が一切合切まとめて霧散してしまいました。
ほんの少しの燃料が投下されただけだというのに。ここまでキレイに一掃されちゃうなんて。
私の恋心ってなんて燃費がいいのでしょう。
どんだけ単純なんだよって我ながら呆れてしまいますが、そうなのだから仕方ありません。
私にとって好きな人の愛の言葉は何よりも嬉しいのですから。
過去の人生でも愚鈍なほどに一途でしたが(6度目の人生以外)、今世も一途なのです!
オーウェンのほうは少しバツがわるそうに、頭をかいています。頬がかすかに赤らんでいるような。
うん。気のせいではないはずです。
胸がキュンとします。
同じ思いなのですね。
なんだか嬉しい。
オーウェンは身体をもぞもぞさせ、
「こういうこと言うの、照れるね。でもダイナは満足そうだ」
「うん。めっちゃ満足。すごく安心した。オーウェンは私にとってかけがえのない大事な人よ。だけど、いつも不安でしょうがなかったの。いつか誰かの元へ行くんじゃないかって」
「え、俺ってそんなに信用なかった?」
「だってオーウェンはかっこいいし、私とは不釣り合いでしょう。イーディス様の結婚式で出会うまでは、手紙も連絡もくれなかったし。……オーウェンがライトの家に戻ってからずっといつか捨てられるのかもって思ってた」
「ばかだなぁ。そんなことありえないのに」
オーウェンは私の頬にキスし「別の日に渡そうと思ってたんだけど」と言いながら、引き出しから小箱を取り出しました。
10センチ四方の小箱の表面には有名なジュエリー店の刻印が押されています。
(これって、もしかしてもしかする?)
小箱のサイズ的にもアレじゃないですか?
アレですよね!
私の期待に満ちた視線をものともせず、オーウェンはうやうやしく蓋を開けました。
「ダイナがこれ以上辛い思いをしないように、今日わたすよ。どうぞ」
小箱の中には金の二連の指輪が収められていました。
鮮やかなターコイズと茶色かかったガーネットが上品に飾られたとても繊細なデザインです。
私はそっと指輪を手に取りました。
指輪の内側には何か文字が刻まれています。
古語のようです。
ゆっくりと読んでみます(教養として一応習っていたのです! ありがとう、お父さん)。
『汝、この指輪を渡す男を愛せよ。男は汝が年老いてもなお愛し続けるだろう』
「オーウェン、これって」
熱烈なプロポーズですよね!
「……俺、跪いた方がいい?」
オーウェンが上目遣いでうかがいます。
私は首を振りました。
「ううん、このままでいいよ」
この事実だけで十分です。
確かに完璧なシュチュエーションのプロポーズって憧れてましたけど(ロマンス小説愛読者ですしね?)、現実ではそれほど重要ではないと実感します。
目の前に、自分を思ってくれる人がいる。
これ以上望むことはありません。
「ダイナ。誓いは言っても?」
「うん。お願いします」
「では……」
オーウェンは咳払いをし、
「ベネット男爵の御令嬢ダイナ・グィネス・ベネット様。このオーウェン・ライトが一生あなたに寄り添うことをお許しくださいますか?」
「うん? え、それだけ?」
「は? それ以外に何があるんだ?」
「もう……、大事なとこが抜けてない? 恋愛経験豊かなんじゃなかったの?」
「恋愛はあるけど、その先は初体験じゃん。しょうがないだろ。で、どうしたらいいんだ? 若奥様?」
私は指を広げ、
「とりあえず指輪、嵌めていただけるかしら? 愛しの旦那様」
「畏まりました」
オーウェンは指輪を受け取ると、私の右手の薬指にはめました。
ほんの少しばかり大きいですが、ほぼ私のサイズです。
いつの間に測っていたのでしょう。さすがオーウェン。抜け目なし、です。
「素敵ね」
「ダイナ。で、答えは?」
私は指輪を見つめました。
オーウェンの瞳と同じ色のターコイズが煌めきます。
アーティガル祭でターコイズが似合うって言ってくれたことの意味が、今になって分かるだなんて。
(答えなんて一つしかないじゃない)
私はオーウェンに顔を寄せました。
59話をお送りします!
少し甘い?お話になりました。
ダイナもオーウェンもようやく……。
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次回も読みにきてくださいね!




