52.あらたな火種はイーディス様。
忙しいと時が経つのも早い、といいますが、いつの間にか季節は初夏です。
イーディス様のご成婚に関するあれこれは、全てが滞りなく終わりました。
華やかで夢のような披露宴や舞踏会を経て、イーディス様はカイル殿下とともに王宮の離宮の一つに移られました。
もちろん私もイーディス様の侍女として宮に上がっています!
しかも!
なんと次席侍女としてです!
つまりは侍女のナンバー2。
一つ出世しました。
お給金が心もち上がるのは嬉しいことですが、この出世、残念なことに実力で勝ち取ったのではありません。
同僚の腰掛け侍女が辞めることになり繰り上がっただけなのです。複雑です。
まぁキャリアアップであることは間違いありませんので、素直に喜ぶことにしています。
宮に上がってからは、波風もなく……と言いたいところですが、そうもうまく行かないのが現実。
「ダイナ。来週午餐会を開こうと思うのよ」
イーディス様が書き物をする手を止め、おっしゃいました。
「小規模でね、親しい人だけを招くつもりよ。もう執事には連絡してあるし、手配も終わらせているんだけど、あなたもホストの一人として出席なさい」
「え、侍女としてではなく、主催者側として私も午餐会に、でございますか……」
私は驚きのあまり視線を逸らします。
貴族や身分の高い方々の言う“親しい人“というのはとても厄介です。
私は貴族階級にありますが、男爵(貴族の一番下の位です)の娘。
王族・侯爵家のお付き合いのある方々となれば、男爵程度ではお目見えできないレベルの方々ばかり、ということになります。
それに主催の一人として参加せよとのこと。
庶民でも富豪レベルの腰掛け侍女であれば臆せずに対処できるのかもしれませんが、私は下級の侍女でしたので、どうにも慣れません。
そんな私をイーディス様はお見通しよ!というように、
「いいこと? あなたの将来のためよ。ライトはラーケンの傍流とはいえ、大きい家なのだから、上位貴族との取引もあるでしょう。将来のライト夫人が上客をもてなせないとか困るでしょうし、出来ないとなったら、あなたを侍女として使っていた我が家門の恥にもなるわ。練習と思いなさい」
「あ。はい……かしこまりました」
オーウェンとのことを出されると反論もできません。
実は、あの結婚式での私とオーウェンのあれこれは、即日イーディス様の耳に入っていたようです。
あれを雇用主に知られるということは、未婚の女性としては赤面ものですが、そもそも仕事中の出来事。
ですので規約違反……主人の控え室で彼氏と過ごしていたことは懲戒に値します。
結婚式の直後、イーディス様から呼び出された時は肝を冷やしました。
クビになるかもしれなかったのですから。
なのに、お叱りを受けることはありませんでした。
反対に「ダイナには私もカイル様も恩があるから、できるだけのことはしてあげたいの」とのお言葉とともに、将来のための教育と名を打ったスパルタトレーニングを受けることになったのです。
侍女との仕事との並行して行われるので、ありがたいことですが、かなり……いいえ、逃げ出したいくらいに大変です……。
ご主人様には階下の者とは違った苦労があるのだとつくづく実感します(実家では経験できないことでしたから!)。
「ダイナ。これが招待客よ。来週までに全部覚えておきなさい。わからないことがあれば、執事に聞くといいわ」
イーディス様から渡されたリストにざっと目を通します。
何度かお目にかかったことのあるご夫婦の名と、独身の御令嬢、この方達は大丈夫そうです。
さらに目を進め、最後に書かれた名前に、私は息を飲みました。
「イーディス様、この方々は……。よろしいのですか」
「ええ。問題ないわ。これからはお付き合いしないといけないでしょうし、仲良くしておきたいもの」
イーディス様は事もなげにおっしゃいますが、お客様は……、
カイル殿下が長年思われていた方で従姉妹のメリッサ・ウォード様。
そしてオーウェンの異母兄バージル・ヒューズ子爵。
これって超マウント合戦になるのでしょうか。
それとも焼け木杭に火がつくのでしょうか。
どっちにしろ胃薬を用意しておく必要がありそうです。
52話をお送りします!
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では次回もお会いしましょう。




