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44.当て馬令嬢。

 おかわりのお茶とケーキを食べ終えても、ネイサンさんは口を開こうともしませんでした。


 ネイサンさんの気持ちが落ち着くまで待っていようと思いましたが、このままだと日が暮れてしまいそうです。


 せっかくの半休なのに、こうして漫然を時間を過ごしお休みを無駄にするのはもったいなく感じます。


 私の用事は済んだことだし、ネイサンさんは放っておいて帰ることにしました。



「ネイサンさん。申し訳ないけど、帰らせてもらうわ。この後、いく所があるの」



 本当のところ行くあてなんて決めてません。ここから離れるための口から出まかせです。


 店を出た後のことは……まぁイーディス様の寝支度の時間までに戻ればいいので、まだまだ時間もありますし、久しぶりに古本屋にでも行ってみようかなと思います。


『薔薇の約束』はすでに4周目に入り、セリフもそらんじてきましたし。そろそろ次の本を読んでもいい頃合いでしょう。



「さようなら。ネイサンさ……え?」



 突然、ネイサンさんが顔をあげ、私の腕を掴みます。

 さすが海軍提督のご令息。腕っぷしもそれなりに鍛えているようで、がっつり固定され動けません。



「ネイサンさん? ちょっと。はなしてください」


「もう少し付き合ってもらえないか?」


「……話は終わったでしょう?」



 ネイサンさんの瞳が切実に訴えてきます。

 僕のお願いを聞いてくれ、と。



「あの、はなして……ネイサンさん?」

「お願いだ。ダイナさん」



 ネイサンさんの口調は如何にも哀れで同情を誘います。

 顔面の整った貴族の若君が必死に平民の女に懇願している姿に、周囲がざわつき始めました。



(策士ね……)



 あぁもう。

 こんな顔されて、このままティールームに一人置き去りにしたら、私が悪者じゃないですか。


 お客さん(かれら)の中では、私は“若い貴族の紳士を袖にした庶民の女“としかなりません。


 2度と会うこともない貴族の方々にどう思われようとも何の障りもありませんが、結婚を目前としたイーディス様にケチがつくのだけは避けねばなりません。


 私は根負けし、再び席につきました。



「ありがとう。やはり思った通りだ。あなたは優しい人だ。新しい考えを持ち、常識に縛られる人ではなかった」


「その言い方。嫌味ですか?」



 非常識なとんでもない人って言ってるのと同じです。心外です。



「悪い方には取らないでほしい。僕らの階級の女性は縛られているだろ。慣習にも男にもね。この求婚も僕に圧されたら大抵の女性は承諾しただろうが、決してなびかなかったあなたのその意志は、素晴らしいと思うよ」



 これは褒めているのか、褒めていないのか。



「で、ダイナさん。結婚はやっぱりダメですか? できないなら婚約まででもいいんだけど」

「ダメです」



 迷うことなく即断です。

 結婚だけでなく婚約? 一体何を言っているのでしょう。この人は。



「私にはネイサンさんが足元に及ばないくらい素敵な人がいるんです。なので、結婚も婚約も無理です。さっきもお断りしたのに、何でここまで食い下がるんですか?」


「あなたのことを気に入ったからだ。あなたが好きだからだよ」



 ネイサンさんは意味深に微笑みます。

 なんて胡散臭い。

 まるで詐欺師のようです。

 やっぱりネイサンさんは信用なりません。



「それ嘘ですよね。ネイサンさんは、私のことなんてなんとも思っていないでしょう?」


「……バレました?」



 人を騙した罪悪感すらないのか、ネイサンさんはあっさりと認めました。

 ほら。思っていた通りです。



「なんでバレてないって思っていたんです?」


「だって女性って甘い誘いが好きでしょ? 特に適齢期の女性にとって結婚という言葉は特別であるはずだし」



 確かに特別で心揺れますけど!

 でも揺れるのは好きな人の言葉だけです。何の感情も持っていない男性に言われても、何にもかんじないです。むしろ感じたくもないですけど。



「……それが言いたかったことですか? 不愉快よ。付き合いきれないわ」


「ちょっと待って、ごめん。ダイナさん。これからが本題なんだ」


 

ネイサンさんは目を閉じて、深呼吸をしました。



「実は狙っている女性がいるんだ。狙っている……違うな。恋している女性がいるんだよ。でも一度は振られたし、ついでに僕に対して一欠片の興味もない」



 本命がいるっていうことですか。



「それで?」

「振り向かせたくて、ダイナさんにプロポーズしたんだ」



 どうしてそうなるのでしょう???

 もしかして……、



「私を当て馬にするためにプロポーズをしたってこと?? なんて浅はかなの……」


「わかってる。でも何としてでも、汚い手を使ってでも振り向かせたかったんだ。少しでも僕の方に気持ちを向けてもらいたかった」


「そんなにネイサンさんに熱意があるなら、そのままその方に伝えればいいじゃない。あなたが跪いて誠意を伝えて応えない女性なんていないわ」


 

 ネイサンさん、家柄や資産は文句ないですし、見た目はイケメンです(オーウェンには敵いませんが)。

 そんな男性が心からこいねがってハイと言わない女性なんていないと思いますけどね。



「ダメだったんだよ。だからダイナさんに協力してほしいんだ。僕はどうしてもこの恋を叶えたいんだ」

読んでいただきありがとうございます!

ほんとうに皆様に感謝です。

ブックマーク、評価を励みに頑張っています。

これからもよろしくお願いします。

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