36.最接近!オーウェンと!
オーウェンのようなかっこいい人に、毎度の如く甘い言葉を浴びせかけられると、オーウェン依存症になってしまいそうです。
でも、私の中でちょっと疑っちゃう気持ちも生まれていました。
イーディス様のように超絶美人さんだったら、素直に受け取れたのかもしれません。
けれど私は家柄が残念で容姿が微妙な……うん、可愛くもなくめちゃくちゃブサイクでもないのです。
褒められ慣れていないので、つい疑ってしまいます。
こんなに綺麗な人が何を言っているんだと。
「オーウェン、いつも女の人にそんなこと言ってるの?」
「そんなこと?」
オーウェンは私の腕を取り、自らの左腕に絡ませました。
今日のオーウェンは特に変わった格好はしていません。普段着の綿のシャツとウールのズボン。何気ない姿なのに、どうしたことか、うっすらと輝いて見えるのは気のせいでしょうか。
「俺、おかしなこと言ってるかな。ダイナ。何て言った?」
「私がかわいいだのなんだの……。私、言われ慣れていないこともあって、落ち着かないんだけど、でもそれを他の女性にも言っていたら嫌だなって」
「俺が他の女の人にも言ってるのか、気にしてるんだ。嫉妬してる?」
「……してるかも。オーウェンが他の女性と仲良くしてるって思ったら嫌。オーウェンもそうあって欲しいって思うけど?」
私の問にオーウェンは何も答えずに微笑んだだけでした。
え、どうなの。あるのかないのか。
その答えはなんかずるい。
そりゃあ過去に色々あるのかもしれないですし、経験値はかなり積んでいるってのはわかっています。
だからきっと私が妬いても屁でもないんでしょう。
でも質問にくらい答えてくれてもいいじゃないですか。
微笑めば済まされると思っているところもイラッとします(でもオーウェンの顔はいい……許してしまいそうです)。
「ねぇ、オーウェン。何も言わないなんて……」
突然、周囲から歓声が湧き上がりました。
「時間だよ、ダイナ」
今日はオーウェンとお祭りデート。
そうアーティガル祭の最後の締めくくりを見学しにきたのです。
「俺の前においで。よく見えるから」とオーウェンがそっと私の後ろに立ち腰に腕をまわしました。
かすかにオーウェンの温もりが背中から伝わってきます。
えっと、オーウェンさん?
すごく近いんですけど?
刺激が、刺激が強すぎます!
「ちょっと、オーウェン??」
「だめ。前向いて、ダイナ。始まるよ」
その時、囃したてる観客の歓声が再び大きく唸りました。
この祭りのメインイベントである山車が現れたようです。
アーティガルや女神の張子を乗せ、軽やかな太鼓のリズムと人々の掛け声に合わせてゆっくりと通りを進んでいます。
二階屋ほどもある巨大な山車には、他国から輸入した絹織物やタッセルがこれでもかというほどに飾り付けられていました。
生地の艶やかさから東方から輸入された絹に違いありません。
お金に糸目をつけずに、自らのためではなく、街のため、ギルドの見栄のために誂えた商人の心意気すら感じます。
私の故郷でもアーティガルの祭りでは山車が出されます(アーティガル祭では祭りの最後は飾り立てられた山車のパレードと決まっているのです)が、子供の頃は「めっちゃ豪華!」と思ったものです。
が、この山車に比べると、質素すぎる。むしろ貧相。
都会と田舎の格差ってことなのでしょう。
それでも。
田舎者には素敵な刺激です。
私はオーウェンと密着していることすら忘れ、見入ってしまいます。
「すごいね、オーウェン!」
「うん。煌びやかだ」
「こんなに豪華な山車、初めてみたわ。15から首都にいるのに、今まで見たことがなかっただなんて、もったいないことしてた。知ってたらイーディス様にお願いしてたのになぁ」
オーウェンは深く息をついて、
「あぁほんと。ダイナは……」
私の首筋に顔を埋めました。
オーウェンの表情は見えません。
あれ?
泣いている?
そんな気配がしました。




