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転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。  作者: 吉井あん
第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。
35/73

35.恋愛小説以上のヒーロー。

 『薔薇の約束』は特に奇抜な設定のお話ではありません。

 ですが、かえってそれがとてもよく、オーソドックスな中に面白みがありました。


 何よりもヒロインのローズとヒーローのダグラスが、まるで自分がその場にいるかのように臨場感あふれるものだったのです(実在の人物をモデルにしているので当然なのかも)。


 定番な悲恋でありながら、私は夢中になって読んでしまいました。


 現在の私でもそうなのですから、20数年前の読者は、現在進行形か、少し前に収束したスキャンダルと重ね合わせて、さぞ楽しんだことでしょう。


 大ブームになったというのも納得です。


 周囲が薄暗くなり、慌てて祖父母の家に戻った後も、私は夕食を取るのを忘れるほどに没頭してしまいました。

 夜食を持ってきてくれたメアリーには『小説ごときに』と呆れられてしまいましたが。

 

 だって止められないんですもの。


 そのままキリのいいところまで……次の章まで……と深夜になり……、それでも読みきれなかったので、翌日もオーウェンと出かける直前まで浸ってしまいました。



 けれど、これは失敗でした。

 いや大失敗です。

 完全に不覚です。


 数時間前の私、なぜ全力で止めなかったのでしょう。


 出かける準備のために鏡の前に立った私が見たものは――、


 目の下に隈ができている……つまり顔色も悪く、疲れ切った顔をしている――不細工がさらに増した自分だったのです!!


 今からオーウェンと会うのに。すっごく楽しみにしていたのに。この休みのメインイベントなのに。

 なんてことでしょう。

 最後にやらかしてしまいました。


 好きな人には少しでも可愛く見せたいじゃないですか。

 あああ、ほんと私って馬鹿です。

 とりあえず化粧でカバーしてみましたが……。



「ダイナ。夜、寝れなかったの? すごく眠そうな顔してる」


 オーウェンの第一声がこれでした。


 やっぱり。

 ブスですよね。

 平均的平凡な容姿はベストな状態でこそ見れるもの。状態が悪かったら見られるもんじゃないよね。

 しかも容姿端麗な人の横に並ぶんです。

 際立ってしまいます。



「うん、そうなの。夜更かししちゃって」


「へぇ。もしかして俺と会うのが楽しみで寝れなかったとか?……違うのか」



 オーウェンはほんの少しがっかりしたようです。


 ごめんね。オーウェン。

 違います。

 オーウェンと会うのなら完璧な状態に仕上げたい。ニキビ一つすら許さないくらいに、早寝して朝イチで沐浴までしちゃいますよ。


 うん。

 完全に自分の欲望に負けちゃったせいです。



「がっかりしないで。オーウェンと会える事は楽しみにしてたの。待ち遠しかった。でも寝れなかったのは別に理由があるの」



 お安く買った小説があんなに面白かったのがいけないんです。

 たったの1ダリクであそこまでのめりこめるだなんて思わないじゃないですか。

 

 でも、本を読んでいて寝れませんでしたとか、こんなことをデートする相手から言われて、どう思われるでしょうか。

 幻滅されてしまうのではと心配です。



「オーウェン、理由を聞いてがっかりしない?」


「それは内容によるかな。で、俺のダイナの目の下をこんなにする理由って、何?」



 オーウェンは私の隈を優しくなぞります。

 涼やかな瞳がじっと私をとらえます。

 近い、近い。

 私はそっと体を離し、



「あ、あのね。昨日、小説を買ったんだけど、それが面白くて。止まらなくなっちゃったの」


「寝るのも戸惑うくらいに、そんなに面白い本なんだ。小説? どんな本?」


「昔、流行った……恋愛小説よ。悲恋なんだけど、とてもドラマチックで」


「ラブロマンスかぁ。女性に人気だと聞くけど、ダイナも読むんだね」


「そりゃ読むよ。ロマンティックな恋愛は女の人の憧れだよ」


「……憧れるんだ」



 オーウェンは子供のような無邪気な笑みを浮かべると、私の耳元でささやきました。



「じゃあ、今日は俺が恋愛小説のヒーローになってあげるよ。ダイナの思う理想の恋人ってのにね」


「は? え??」



 もう十分私のヒーローですけど。

 恋愛小説のような人、あんなの現実にあったら心臓がいくつあっても足りないじゃないですか。

 というか、今でも心拍が上がりまくっています。

 替えの心臓が欲しい。



「ねぇダイナ。その本のヒーローはどんな人?」



 私はダグラスの特徴を説明しました。

 まぁ愛のない政略結婚をした侯爵様で容姿は言うまでもありません。貴族ではないオーウェンとは、イケメンなところだけが共通です。



「ふぅん、浮気者で顔がいいって……どこにでもいる貴族の男だね。それでヒロインは?」



 ローズはその名の通り薔薇のように美しい人です。

 艶やかな金色の髪と、夢見るような青い瞳。華奢で優雅。平民ではあるけれど、裕福な家で何不自由なく育った。……私とは正反対。



「すごく綺麗な人よ。優しくて、性格もいいの。私とは違うわ」


「金髪で碧眼が綺麗なのか……。ダイナの思う綺麗っていうの、俺にはよくわからないな。第一、ダイナ以上に見た目も中身も可愛い子はいないし。ダイナが憧れるところがどこにあるんだろう」



 オーウェンってどうしてこんなことが言えるのでしょう。

 嬉しいというより、恥ずかしさが勝ります。

 言葉が向けられているのは絶世の美女ならいざ知らず、どこにでもある平凡な容姿の私なのですから。



「オーウェン……お願いだから、それ以上は言わないで……」


 私の好きな人は、もしかしたらラブロマンス小説のヒーローよりも、ヒーローなのかもしれません。

35話をお送りします!


オーウェンがオーウェンな回でした笑


ブックマーク、評価ありがとうございます。

嬉しいです。

励みにさせて頂いています。


次回もぜひ読みに来てくださいね。

では。皆様に多謝を。

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