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転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。  作者: 吉井あん
第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。
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34.情熱は人から生まれ落ちるもの。

 古本市は繊維市ほどは混み合ってはいませんでした。

 庶民にとって生地は生活に関わるもので、本は余暇を充実させるもの。


 ですから、この古本市のお客さんは、私も含めてかなりの好事家ということになります。


 当然、繊維市のように殺気だったお客さんもいません。

 おかげでゆっくりと品定めすることができそうです。


 私はときどき冷やかしながら露店市を歩き回りました。

 露店ごとに取り扱うジャンルにも得意・不得意があるようです。歴史物や政治物、自然科学に古典・小説……見ているだけでも、楽しくなります!



(どれも読んでみたいけど、高いなぁ……)



 本は高級品。

 古本でもそれなりにしちゃいます。

 手持ちをはたいても買えそうにありません。


 ぶらぶらと歩いているうちに、いつの間にか市の外れにきていました。

 小ぢんまりとした露店の店先に、無造作に置かれた籠が、ふと目につきました。

 よく見ると特価と書かれた値札がつけてあります。


 籠の中には読み込まれボロボロになった本がいくつも入っていました。

 一冊手に取ってみます。

 表紙は傷んでいますが、中はそれほど悪くなく、読むには支障がなさそうです。



「おや、珍しいね。若い娘さんが一人で本を探しているだなんて」



 店主の男性が声をかけてきました。



「あら。今は女性も一人で買い物に行く時代なのよ。おじさん、この籠の中のおすすめってどれ?」


「それじゃあ、この本はどうだい?」と店主が籠から一冊の本を抜き取りました。


「ラブロマンスだよ。女の人は好きだろう? 古来より女性はロマンスが好きって決まってる」



 いやまぁ嫌いじゃないですけど。

 ていうか女子は大抵が大好きですけど。


 私は本を受け取りパラパラとめくってみます。


 タイトルは『薔薇の約束』

 お互いに思い合う男女が、身分違いゆえに引き裂かれる悲劇のラブロマンス。

 女性に人気の定番、身分差ジャンルのようです。



「それね、昔……そうさなぁ20年くらい前かなぁ、めちゃくちゃ流行ったんだよ。若いのから婆さんまで毎日毎日ないかないかって詰めかけてきてね。おかげでかなり儲けさせてもらったよ」


「そんなに流行ったんです? お話は特に変わった感じではないように思えるけど」



 よくあるラブロマンスで、それが一大ムーブメントになるってよっぽどのことです。


 だって本って高いんですよ?

 本は娯楽ですから、生活に必要ではありません。後回しにされるものです。

 それなのに老若問わずに読みたがるだなんて。



「……お嬢さんはまだ生まれる前だから知らないだろうけど、この本はね、有名な貴族様のゴシップを下敷きにした話なんだ」


「本物の貴族の?」


「ああ。当時、かなり話題になったものさ。名前は何だったかな、ちょっと思い出せないが……さる侯爵家の若君さんが富豪筋のお嬢様と恋仲になってね。妾にすればいいって話だけど、富豪のお嬢様は平民だが、背負ってる財力が半端ない。他国の王侯貴族からも求婚されるほどだからね、妾にできるような身分でもなかった」


「じゃあ、普通に結婚すればよかったのに。お金持ちのお嬢様なら例え平民でも侯爵家との縁組も問題ないんじゃないの?」


「それがなぁ。若君はもう結婚していたんだよ。しかも王家の女性とね。確か子供もいたはずだ」



 政略結婚ゆえに愛はない、といったところでしょうか。

 でも貴族にはよくあることではないかしら。

 実際に、結婚後、愛を配偶者以外の相手に求めることも珍しいことではありません。



「でもおじさん、それだけで世間を揺るがすゴシップになることもないでしょう?」


「これからだよ、お嬢ちゃん。何と若君はそのお嬢様と手を取り合って、駆け落ちしたんだよ」


「えええ?! 駆け落ちですか??」



 信じられない。

 なんと阿呆なことを……。

 恋は人を狂わせると言うけれど、まさしくその通りな……。


 既婚者が駆け落ちなんてことをすれば、貴族の全てと言っていい社交界で爪弾きにされてしまいます。


 家督を受け継ぐことが決まっているのならば、廃嫡の可能性もあります。

 血を繋ぎ、富を次世代に届けることが貴族の存在意義なのですから、愚かだなとしか思えません。


 でもこうして物語になるほどの、全てを愛に投げ打っちゃうほど熱情的な人も世の中にはいたのですね。

 ロマンティックですね、ほんと。



「その若君たちはどうなったの?」


「駆け落ち先で保護されて、連れ戻されたんだ。本来ならこのまま世間に知られることなく終わったんだろうが、新聞記者にかぎつけられて、侯爵家の努力の甲斐もなく大々的に報道されちまったんだ。あんときゃ凄かったよ」


「それでおじさんも知ってるのね」


「そう言うことさ。どうだい、お嬢ちゃん。1ダリクでいいよ」


「商売上手ね! 断れないじゃないの。うーん。ちょっと傷んでるけど、いいわ。買う」



 ラブロマンスは気楽に読めるので私も大好きです。

 しかも本当の事件がネタだなんて。

 最高に面白そうじゃないですか!


 早速、家に帰って……ああ、家にはネイサンさんとかいるかもしれないので、天気もいいしどこかで読んで帰ろう。

 古本市の広場の片隅に空いたベンチに腰をかけ、本を開きました。

読んでいただきありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!

とてもとても励みにしています。感謝です!


明日からは夕方17時台の更新になります。

また読みに来てくださいね!

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