32.僕は役に立つ男です。
これははっきり言った方がいいかもしれません。
将来『ネイサンさん被害者の会』を作らせないためにも。
「なんか、あれですね。ものすごく小者っぽくないですか? ネイサンさん」
「は?! 僕が、小者? キーン海軍提督の息子の僕が? 将来1万ダリクの年収を保障されている僕が小者だと言うのか?」
ネイサンさんの言葉に思わず動きが止まります。
1万ダリク!
ネイサンさん、(家督を継げば)1万ダリクの男だったなんて!
1万ダリクがどれくらいかというと、私のお給金が年間100ダリクですから(これでも女性としては多めです)、ネイサンさんの資産は富豪並みと言っていいと思います。
キーン家は元々地主階級でしたが、それにしても多い気がしますが……。
領から上がる年貢だけでなく、富裕層で流行っている投資などもしているのかもしれません。
性格が残念なことに目を瞑れば、ネイサンさんの結婚相手になればかなり贅沢な生活ができそうです。
だけどなぁ。
なんか小さいですよね、人として。うん。
こんな狭い器だと、お金があっても苦労しかないですよね。
「だって女性にふられたからって腹いせをするなんて、紳士としてどうなのって思うわ。もっといい男になって再度メアリーにチャレンジするとか、きっぱり諦めて次に行くとかした方がいいんじゃない?」
「そうは言っても……。こう侮辱されて黙ってもいられないじゃないか。女に馬鹿にされたままでいいっていうのか」
「女にって。だから小さいんでしょ? ふられて惨めだって言うのはわかるけど、ネイサンさんがタイミングを逃してしまったんだから仕方ないじゃない。それなのに人にあたるとか、もっての外よ」
ほら、最近評判の心理カウンセラー? っていう職の人に話を聞いてみてもらうのもいいかも、と私は付け加えます。
私に慰めてもらえると思っていたのに当てが外れたのか、ネイサンさんは項垂れました。
しばらくして顔をあげて、
「ダイナさん。あなたの言うとおりだ。僕が間違っていたのかもしれない。僕は自分勝手だった」
憑き物が落ちたのか、酔いが覚めたのか。
ネイサンさんはさっぱりとした表情です。
それなりに整っているので、良い顔の圧が押し寄せてきます。中身を知らなかったらドキドキしたかもしれません。
「はっきり言ってくれてありがとう。女性でそこまで親身になってくれたのは、あなたぐらいだ。これからも僕の相談相手になってもらえたら嬉しいのだが」
「お断りします」
「ええ……?」
ネイサンさんは断られるとは思っていなかったのか、声が裏返りました。
「私は休暇でここにいるだけなの。来週には仕事に戻るわ。だからネイサンさんと親しくなっても、私に利はないでしょ。私、無駄な労力は使いたくないので、他の方にしてくれませんか?」
どうせ私に相談って恋愛事か結婚の事でしょう。
他人の恋に巻き込まれるのはごめんです(2回目)
そういうことは当事者同士で何とかして欲しいものです。だって他人を挟むと拗れていくだけですから。
あ、でもイーディス様は主人ですからね、協力するメリットも十分ありました!(今回の休暇もご褒美ですし)。
ネイサンさんとかメアリーの恋は、ね?
それに何より自分の恋愛に忙しいのです。
この休みの間にオーウェンとの仲を進めたいですし。
1秒でも時間があればオーウェンのことを考えていたい。他人に構っている暇はないです。
ネイサンさんはなるほどと腕を組みます。
「確かにそう度々会えることはないかもしれない。だけどね、ダイナさん。僕は思っている以上に使える人間だよ。それなりに資産を持っているし。あなたの今後の人生を考えて、こんな男と親しくなっていても損はないと思うけどね?」
なぜかネイサンさんも引く気はないようです。
ネイサンさんに使う時間などないのに……。
はぁ。仕方ないですね。
これ以上揉めるのも鬱陶しいですし。
どうせ、この休暇の間だけの付き合い。軽くいなしておきましょう。
「……コネは大事って言いたいんですよね? その通りね。でもネイサンさんはもう少し謙虚になった方がいいと思う。ほんっと残念すぎる」
「僕が残念? 初めて言われたよ。若干傷ついたね」
「小手試し程度でビビりました? 控えめが淑女の基本ですけど、私は淑女じゃありませんから、私を相談役にする以上、覚悟しておいてくださいね。言いたいことは言いますよ」
少しの、ほんの少しの我慢と思いながら、ネイサンさんと握手を交わし、束の間の友情?を約束したのでした。
32話をお送りします。
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皆様に多謝を。
良い休暇をお過ごし下さいませ。
次回もまたお会いしましょう!




