28.ネイサンさんの野望。
貧乏男爵家で使用人をしているものの、ここまで卑下される必要はないと思います。
ネイサンさんは親切心で言っているんでしょうけど、放っておいて欲しいです。
やっぱりネイサンさんは空気読めない系?
あぁ、それともよくある“恵まれた者がそうでない者に施す義務“というやつでしょうか。
「今の私の処遇が、ベネット家としては惨めなものであるということは重々承知しています。ですが、自ら納得していることです。ネイサンさんのお気持ちはありがたいことですが、これ以上のご親切をお受けすることはできません」
落ちぶれても男爵家の娘です。
お金のために年の離れすぎた男性と結婚する……利点はよく分かりますが、心がついていけません。
好意のある相手と添い遂げる夢だけは捨てないでおきたいのです。
結婚する未来はなくとも。
「ダイナさんにとって良い縁だと思ったのですが。そうですか。残念です」
ネイサンさんは首の後ろをさすりながら、
「僕はただメアリーさんのご親戚に落ちぶれてしまった男爵家がいるのが、どうにも風体が悪いと思ったまでです。自らは豪勢な生活をしつつも親戚に手を差し伸べない冷血と、世間にみられたくはないですからね」
なぜここでメアリーが出てくるのでしょう?
「私とメアリーがどう見られようと、ネイサンさんには関係のないことじゃないですか」
「いいえ、ありますよ。僕もフェルトン準男爵家の一員になるのですから」
「え。メアリーと結婚するのですか?」
「まだ決まってはいませんが、近いうちにメアリーさんにプロポーズするつもりです。きっと受け入れてくれるでしょう。僕は高名な海軍提督の息子ですし、困窮した親戚にまで手を差し伸べる優しい心根のある男です。そんな婿を無碍にするはずはありません」
ネイサンさんの口ぶりから、自分が必ずメアリーに選ばれると思っている様子です。
なんて高慢で、自意識過剰!
とも言い切れないところが痛いです。
だってメアリーはネイサンさんに好意があるんですもん。プロポーズされたら受けるの決まっています。
でも、ネイサンさんの本音がこう打算しかないだなんて、従姉妹が可哀想すぎます。悲しいじゃないですか……。
「……メアリーを愛してはいないのですか?」
「おかしなことをおっしゃるのですね。結婚に感情などいりません。そうではないですか?」
そうです。
貴族や富豪の結婚は家のために行われるもの。
だとしても、少しは相手を慕う感情がなければ、不幸でしかありません。
だからイーディス様もカイル殿下に振り向いてもらえるように必死でした。より良い未来を作るために。
私の険しくなる表情を見て、ネイサンさんは慌ててフォローします。
「あぁ、メアリーさんのことは好きですよ。まだ愛してはいませんが。好意はあります。結婚したら、夫として精一杯の努力はするつもりです」
「最低ですね」
とは言うものの、今の貴族や富裕層の認識はこんなものなのかもしれません。
義務で結婚し、子供を一人二人作った後は、各自別のパートナーをみつけ愛でる。
貴族の中に蔓延った悪習です。
私は過去の人生は6回目以外は庶民(と鹿)でしたので、この習慣にだけはどうしても馴染めません。
18年もこの世界で生きているのだから、慣れてもいいと思うんですけどね。
根底が違うネイサンさんと話しても、何の実も得ることは出来なさそうです。
ストレスを溜めるよりも、さっさと退場したほうがいいでしょう。
私はイーディス様仕込みの優雅な淑女の礼をネイサンさんに向けました。
「ネイサンさんのご親切に感謝します。でも私には分不相応なもの。……2度と話しかけないでくださいね! ムカつくので!」
「え。ダイナ……さん??」
ネイサンさんが口を開け、目を丸くしています。
無視無視。
さぁ帰りましょう。
寝不足はお肌の大敵。ニキビができる前に、家に戻ってゆっくり寝るんです!!
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