27.上から目線ですか。
「裕福な家族の中で一人だけ、質素な姿をしていておかしいと思っていました。事情があるのではと薄々感じていたのですが、昨日、メアリーさんから聞いたのです」
ネイサンさんは私の手を握ります。
「このまま不幸でいてはいけません。あなたのように可愛らしい方は幸せになる権利があるのです」
「えっと……」
か……可愛いですって!!
オーウェンからだけでなく、ネイサンさんからも言われましたよ。
ネイサンさんは私の趣味とは違いますが、それなりにイケメンさんです。
手も握られていますけど、嫌な気はしません。
しかもちょっとネイサンさんの瞳が気持ち潤んでいませんか?
これって、もしかして、もしかしますか?
一目惚れ、とかですか???
どうしましょう。
嬉しいですけど、困りました。
今の私は7週目の命ですからね。
今世も4回目、5回目の平凡だけど幸せな人生を送ることが目標です。
前回のお姫様のように暗殺されて終わらないようにしたいとは思っています(まぁ身分もそう高くないので暗殺されることなんてないでしょうが)。
絶対に幸せになってやるんだ!って決意して日々精進中です。
そんな中でのネイサンさんのお言葉。
これってその“幸せキャンペーン“の第一弾でしょうか。
「ネイサンさん、いったい何を?」
私はそっと視線を逸らしながら訊きます。
ネイサンさんは真面目腐った表情で、
「僕の親戚に長年連れ添った細君を、昨年亡くされた方がいましてね。穏やかで、暴力などしない真面目な人です。今は首都ではなく、地方の領の館に住んでいますが、きっと気に入ってもらえると思います。とても落ち着いた良い土地ですから」
うん?
親戚の……?
「長年連れ添った……って……」
おおっと。
どうやら盛大な勘違いだったようです。
ネイサンさんが私に……ではなく、ご親戚のおじさん(もしくは爺さん)との縁を取り持ちたかっただけだったみたい。
私が貧乏で結婚の条件を満たしていないからって、見下されてませんか?
気分が悪いですね。
ぐいぐい上がってたネイサンさんの評価がみるみる落ちます。
「つまり、ネイサンさん。私にあなたの親戚の男寡の後妻に入れとおっしゃるのですか?」
「悪い話ではないと思いますよ。ダイナさんから見ればかなり年上ですが、彼は財産家です。しかも持参金は必要ない、身一つで来てもらってもいいとまで言っています。若い身空でこの世を渡っていくのは大変です。女性の幸せは結婚にあるのですから、いつまでも勤めていないで嫁いではいかがですか?」
ネイサンさんは心底案じてくれているのでしょう。
真っ直ぐに一欠片も曇りのない眼差しで私を見つめます。
いいことをしていると信じて疑ってもいない風です。
「そうかもしれませんね」
私は肩をすくめました。
この国で、女性が理想的な結婚をするためには必須条件があります。
容姿・家柄・そして持参金です。
スリーカードが揃えば、超良縁に恵まれますが、現実ではうまくいかないもの。大抵は何かしらが欠陥します。
美人だけど、家柄が……とか、容姿はイマイチだけど、持参金が莫大だ……とかですね(ちなみに私は全て落第です)。
でも若ければ絶対に結婚できない……というわけではないのです。
一つ二つ条件にかなわなくても、結婚することはできます。
そう、ネイサンさんの言うように、かなり年上の男性との結婚です。
中年になるまで条件が合わなくて結婚できなかったり、妻を亡くした男性など、金はあるがその他がない案件、難あり案件が、同じように追い詰められた若い女性を求めるのです。
需要と供給。
まさにそれです。
ほんっと胸クソ悪い。
「そうかもしれません。でも、ネイサンさん。私がどう生きようがあなたには関係のないことです。出会ったばかりだというのに、こんなことを仰るだなんて。ご常識がないのではありませんか。幻滅しました」
「ダイナさん、そういう訳ではありません」
どういうわけだ。
見た目はいいのに残念です。




