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転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。  作者: 吉井あん
第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。
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26.もしかして、今から口説かれます?

 舞踏会は西の広場……昨日の繊維市のあった広場からほど近い場所にある富豪の邸宅で行われるようです。

 舞踏会までの道すがら、ネイサンさんとメアリーが、何も知らない私のために主催者について教えてくれました。


 この度の舞踏会のホストは貴族ではなく、富豪。

 しかもただの富豪ではなく、この国の産業という産業に関わっている名門だそうです。

 その権力は王家と肩を並べるほど……らしいのです。


 と言われてもピンと来ないのが悲しいところです。

 イーディス様の侍女の立場にありながら、恥ずかしいことですが、私は諸事情に明るくありません。

 ネイサンさんが家名を教えてくれましたが、『名前は聞いたことがある』程度です。


 あ、私が頭が残念と思われるのもしゃくなので、補足として。


 今世では政治や経済に関する勉学は女子には必要ないと考えられていまして(特に私の実家はまんまこれ)、私にはほとんど知識はありません。


 女子にも社会情勢を教授していただかないとこんな時は困りますね……。

 イーディス様に恥をかかしてもいけないですし、お休みが明けたら先生を探すことにします。



 で、その富豪が年に一度、アーティガル祭に合わせて慈善行事チャリティという名目を掲げた大規模舞踏会を開くのが社交界の恒例なのだそうです。


 もちろんチャリティが目的なので貴族や庶民の富裕層から選りすぐった人々が招待され(これまたステイタスとなっているんですって!)、舞踏会の前に行われるオークションの売り上げが戦争孤児や未亡人たちを支援するために使われるというのですが……。



(この屋敷を売り払えば、世の中全ての孤児も未亡人も死ぬまで普通に暮らせそう……)



 と思わざるを得ないほどの、溢れる富と贅沢な暮らしがそこにあるのです。

 モヤッとします。


 私のお仕えする公爵家の邸宅よりも敷地も広く立派ですし、私の知るところ、これ以上の邸宅は王宮くらいしか思い浮かびません。

 さらに信じられないことに、無爵位、つまりここの主人はこんな所に住みながらも庶民なのです。


 娘を社交界デビューさせることも結婚させることもできない貧乏な男爵家と、大違いです。


 経済的に逼迫し体面を整えることに必死な貴族と、貴族以上の富と権力を持つ庶民。

 どちらが真の貴族と言えるのでしょうか。



 と、優雅な音楽に身を任せながら考えてしまいました。



 なぜって?

 いや、うん。逃避です。

 だってネイサンさんとダンス中なのです!


 この国の男女二人のダンスは向かい合って、両手を取って体を密着させて踊ります。


 つまりね、ほら、顔が近いんですよ。

 化粧のヨレがわかってしまうほどに!


 ネイサンさん、メアリーが狙うくらいですので、お顔は悪くないです。はい。

 オーウェンには遥かに劣りますけど。

 気がなくとも近すぎると落ち着かないものです。



「ネイサンさん、ちょっと目眩がするので……。席まで連れて行っていただいても?」


「おや。無理をさせてしまいましたか。ダイナさんは踊りは嫌いではないのに、舞踏会がお好きではないようですね」



 ネイサンさんが私の腕を取り、壁際の控えの椅子までエスコートしてくれました。


 舞踏会では同じ相手とはニ曲続けて踊るのがマナー。とりあえずノルマはクリアしました。ささっと撤退することにしたのです。



「ええ。踊りは好きですよ。でも社交界は……というよりも、人混みがあまり好きではないのかもしれません。仕事では我慢できますが、私生活では耐えるのは難しいようです。ほんのわずかな時間なのに疲れてしまいました」



 二曲踊っただけなのに、会場の着飾った人々の煌びやかさ、化粧と香水の匂い、そしてむせ返るような熱気にあてられてしまったのは事実です。


 調子が悪いのは本当ですが、帰る口実ができた! と思わず心の中で小躍りしたのは内緒です。


 私は椅子に腰掛け、いかにも具合が悪そうなふりをします。



「ネイサンさんには申し訳ないわ。お気をつかっていただいたのに、こんなことになってしまうだなんて」


「体調が優れないのは仕方ありません。それにしてもダイナさんは男爵家の御令嬢だというのに、社交嫌いとは……。珍しいことですね」



 若い女性は社交界の華であり、花婿を探すハンターです。メアリーもそうですが、未婚の女性にとって出会いの場(ダンスパーティ)は大好物なのです。


 でも私は貧乏すぎて、社交界に住むことすら許されない身の上です。楽しむなんて烏滸がましい。

 デビューできるのならばしたかったですよ。ついでに結婚も。


 私は2メートル前をうつむき加減で見つめます(こうすると悲しんでいるように見えるのです! 仕事中に編み出した技です)。



「私、社交界にデビューしていませんから、社交界との交わりがないのです。それに勤めていますから、上流階級の方々とのつながりも必要ありません」


「ああ、そういえば侍女として働いておられるそうですね。経済的理由でご実家を出られたとか」



 私のこめかみがピクリと揺れます。

 何なんだ、この人。

 どうしてこう人が触れられたくないことをズケズケと口にするのでしょう。



「ネイサンさん。私のことはご存知でしょう? それを何故口にしておっしゃるのですか」


「……ダイナさん。正直言いましょう。私はあなたが苦労しているのを見ていられないのです」



 ネイサンさんの口調に急に熱が帯びてきました。

26話をお送りします。


タイトルを変えてみました!

いかがでしょうか?


ブックマーク評価ありがとうございます!

ものすごく励みにさせていただいています。


では次回もお会いしましょう。

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