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転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。  作者: 吉井あん
第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。
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25.ひっかきまわすのはネイサンさん。

 舞踏会の準備は大変です。

 主催がどの地位にある人物なのかでかなり変わりますが、ドレスなどの衣装の選定に従者を誰にするかまで繊細な配慮を行わねばなりません。


 私も何度か参加しましたが、立場としてはイーディス様の侍女でした。

 しかも侍女の中で一番下のクラス。

 仕事という仕事もなく、後ろをついて歩けばいいだけの気楽なものです。


 けれど、今回は召使いとしてではなくゲストとしての参加となると、全てを準備しなければなりません。


 うん。非常に億劫です。


 そもそも私は社交界にデビューすらしていないのですし(これからデビューする予定もありません)、知名度もなければドレスもありません。

 貴族や富裕層の方々と社交する理由が、どこにあるのでしょうか。






 あ。

 ありました。


 異性との出会いですね。

 メアリーの思いやりなのでしょう。


「男いないなら、連れてってあげるわ! (貧乏な)ダイナは結婚はできないかもだけど、恋愛は楽しめるでしょ?」と。

 可哀想な従姉妹へ優しい配慮のできる自分素敵……といったところかもしれませんね。


 大切に育てられたいいところのお嬢様っぽい思考です。


 でも今回は大きなお世話でしかありません。

 私にはオーウェンがいます。しかも類まれなイケメンっていう最高の男性です(私見)。


 何でもアリな爛れた社交界にオーウェンほどの人はまずいません。


 それに舞踏会に来るような方々と知りあったとしても私とは釣り合いが取れないでしょうし(お付き合いをしたとしても、持参金を用意できない貴族の女性の行く末は暗いのです)。

 遊ばれて捨てられるだけです。



 つまりは、行っても無駄。

 休みの日くらいは、夜は寝て過ごしたい。

 怠け者って言われてもいいです。

 むしろ怠け者でいたい。



 なーのーに。



「ねぇ、メアリー。私、行かないって言ったよね?」



 目の前に広げられたドレスを見て、私は苛立ちを隠さず言いました。


 だって、久しぶりの休み、しかも暖かな西日の差し込む部屋で惰眠を貪っていた最中に叩き起こされたのです。

 気分も悪くなりますよね。


 しかも寝ぼけているのをいいことに、あっという間に部屋中に――ドレスやら貴金属やらが持ち込まれてきたのです。

 明らかに舞踏会用です。


 メアリーは私の隣に来ると不機嫌そうに腕を組みました。



「うん。あなたは断ったわ。はっきりと」



 メアリーが準備させたはずなのに、訳がわかりません。



「じゃあ、何で用意したのよ。これ全部、メアリーのドレスでしょう? 従姉妹同士だから体格も似てるし着れないことはないけど、私、行くつもりないのよ」



 メイドによって部屋に持ち込まれたドレスの数々は、去年、メアリーが嬉しそうに話してくれた『ラファイエット』のドレスコレクションだと思われます。

 メアリーの父親である叔父様が、成人のお祝いに特別に仕立ててくださったと言っていたものに違いありません。


 今年流行しているデザインのものではありませんが、ベーシックな、でも素敵なドレスばかりです。さすがはラファイエットというところですが……。


 メアリーはこめかみを押さえます。



「私だってダイナの気持ちを尊重してあげたかったわ。お仕事で疲れている体を休めたいと思っているだろうし、アーティガル祭の舞踏会は、むりやり引っ張って連れて行くものでもないもの。それにラファイエットのドレスは私の宝物よ。本当は誰にも貸したくないの」



 じゃあ貸さなきゃいいじゃないの! って心の中で突っ込みました。

 お高いですものね。わからないでもないです。



「でも、ネイサンさんが……」


「は? ネイサンさん??」



 え、ここでネイサンさんが出てきますか?



「ネイサンさんが、ダイナも一緒じゃないと、行かないっていうの。従姉妹なのに一人で家に留守居させるなんて酷いじゃないかって。エスコートする人がいないなら自分がするから、連れて行こうって。ダイナにドレスがないなら、ラファイエットのドレスを貸すべきだって」


「わぁお」



 なんてことを。

 いらないことしたのはネイサンさんでしたか。

 気がきくイケメンなつもりなんでしょうけど、空気読めなくないですか?!


 メアリーはネイサンさんのエスコートで舞踏会を楽しく過ごし(あわよくば親密度をあげて恋人になりたい)、私は家でダラダラと過ごす。

 偉大な女子の計画が、パァになりました。



「ね、ダイナ。私のために行ってくれない?」


「……途中で帰ってもいい?」


「うん。顔だけ出したら何か理由つけて帰っていいから」



 ネイサンさんが鈍感なのか気がきくのか。

 私はドレスの一枚を手にしました。

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