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転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。  作者: 吉井あん
第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。
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20.優しいのは罪なのです。

 アーティガル祭。

 一年に一度の大祭です。


 街中、路地という路地、全てが華やかに飾り立てられ、浮足だった住人たちが男も女も大きな声で歌い、片手にビールやワインを携えて通り過ぎていきます。

 いつもの首都のちょっと気取った雰囲気はどこにもありません。


 いかにも『祭り!』という非日常のおめでたい雰囲気に、私も気持ちが上がります!!


 今年はお勤め先から特別にお休みをいただけました。

 新年のお祝いでさえも休めないというのに、あり得ないくらいの幸運です。


 こんなこと今後二度とないでしょう。

 ですので、この1週間、遊び倒しちゃうつもりです!


 名物のミートパイと蜂蜜酒ミードの食べ比べは絶対にします。

 カリスマシェフのいるレストランにも行ってみるつもりです。

 南の広場で大道芸を冷やかすのもいいですね。

 あと古本市もあるはずですから、小説も一冊か二冊買いたいです。


 あ! 忘れるところでした。

 デイドレスの生地と実家の兄弟たちにもお土産を買わないと……。


 週末にはオーウェンとのデートもあります!

 どこに行こうかしら。

 考えるだけでも楽しすぎます。



 ――ほんと私のお隣を歩くニッコニコの従姉妹さんとお客様がいなければ完璧だったのに。



 結局、メアリーとネイサンさんと一緒に出かけざるを得なくなったのですが、私は屋敷を出た途端に後悔しました。


 張り切りすぎじゃないですか? っていうメアリーの装いに、育ちの良さが全身から漂うネイサンさん、そして侍女である私。


 どこにでもあるいつもの光景になってしまうことに――貴族カップルとお付きの侍女――、ため息しかでません。

 あぁ落ち込みますね。



「はい。ダイナさんもどうぞ」



 右手側にメアリーを従えたネイサンさんが、わざわざ私にも腕を差し出しました。



「えっと?」



 私はネイサンさんの左腕をどうしたらいいのでしょう。

 腕を組む?

 冗談じゃありません。


 ネイサンさんは私が腕を取らないことに、不満そうです。



「ダイナさん。道を行くのに女性をエスコートしないわけにはいかないでしょう?」



 うん。

 ネイサンさんってとても紳士的なのですね。


 でも、今の私には必要ありません。

 だって階級だけは貴族ではあるけれど、実際は淑女ではありません。労働によって賃金を得る労働者なのですから。



(それにこんなみずぼらしい格好、隣にいても恥ずかしいだけだわ)



 そうなのです。

 今日は私にとっては上等な木綿のデイドレス。

 でも貴族や富裕層から見れば、質素で残念なデイドレス(かっこう)なのです。


 はたから見れば平民位にあるメアリーの方が(お祖父様は準男爵の爵位タイトルをお持ちですが、貴族ではありません)貴族の令嬢に相応しい格好をしています。


 舶来物のシルクとサテンのデイドレスに、綺麗に結われた髪、控えめながら品のいい仕草。

 誰もが、メアリーが貴族令嬢で、私はただの召使いだと思うでしょう。


 片手に貴族のお嬢様、もう一方には召使いの女。


 周りからしてみれば、奇異な3人。見せ物でしかありません。

 仕事でもないのに、こんな気持ちになるなんて思いもよりませんでした……。


 お休みの日くらいは仕事を忘れて、ただのダイナでいたい。

 自由でいたいのです。


 私はネイサンさんの腕をそっとおろしました。



「ネイサンさん。私にエスコートは必要ありません。私のこと、お聞きになっているでしょう?」


「……ええ」



 ネイサンさんは曖昧に答えたまま、それ以上は言いませんでした。


 ジョンの友人であるネイサンさんは、落ちぶれてしまった男爵家のことを聞かされているはずです。

 きっと同情したでしょう。

 何と不憫なお嬢さんだと。


 赤の他人に不憫とか可哀想とか思われるのも不快でたまりません。

 私は少しの怒りを込めて睨みました。



「ですので、これ以上、気を遣っていただかなくても結構です。お祭りもメアリーと二人で楽しんでください」


「どうしてですか?」


「どうしてって……」



 見たらわかるもんでしょうに。

 メアリーはあなたを狙っているし、この外見の格差は、一緒にいるだけで、とても惨めな気持ちになるのですよ。

 朴念仁なのでしょうか。



「ネイサンさん。本当にお分かりになられないのですか?」


「あなたは侍女として働いているとしても、男爵家の御令嬢であることは間違いありません。それに今は僕の横にいるのです。僕がエスコートしなくてどうしますか」


「お優しいのですね。でも……」



 私はネイサンさんにしな垂れかかるメアリーに目を向けました。

 メアリーが『理由つけてどっかいって』と無言の圧を送ってきます。


 はいはい、わかりました。

 仰せのままに、お嬢様。



「私よりもメアリーを気遣ってください。あなたのことを気に入っているようですから」



 私はそう告げ、丁寧に礼をすると、そそくさと雑踏に紛れたのでした。

20話です!

流行りのものがほぼ無いながらも、ここまでこれました。

ゆるっと完結目指してがんばります。


ブクマ、評価ありがとうございます!!

励みにさせていただいています。


皆様に多謝を。

次回もまたお会いしましょう。

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