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転生を繰り返した私。今世も穏やかな人生を希望します。  作者: 吉井あん
第2章:アーティガル祭と薔薇の約束。
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18.歓迎されないお客様。

 1週間のお休み。

 しかもお祭り期間全部まるっと休暇っていう、信じられないほどの幸運。

 勤め始めて3年になりますが、今までにない事態です。


 ですが、困ったことになりました。


 イーディス様の侍女で1週間もお休みをいただけたのは私しかいません。

 私たち使用人は侯爵邸に住み込みの相部屋が基本です。

 それは侍女でも変わりません。


 つまり侯爵邸に居るのはとても、とっても……超絶気まずいのです。

 向こうは仕事してて、私だけお休みなのですから。


 私の実家は地方で、貧乏なので首都に別宅などありませんし、帰省するつもりもありません(だってオーウェンとデートしなきゃですしね!)。

 泊まるところを確保しなければならなくなりました。

 早急に。


 ふふ。

 実はこういう時にいつもお願いできる場所が、私にはあります。


 首都に住んでいる母方の祖父母の家! です。


 我が家と違って経済的に恵まれている家ですので、私一人くらい余裕で迎え入れてくれるはずです。


 前日に急ぎの手紙を送って、翌朝、相手方からは歓迎されないほどの早い時間に訪問することにしました。


 いつぞやのカイル殿下のアポなし訪問と同じ、礼儀知らずの強行ですけど。

 でもカイル殿下の件とは違って、私は孫ですし、家族。

 許されるでしょう?



 そして私は祖父母宅の朝食室へ突入したのです。


 文句を言われる前に、謝っちゃう戦法でいくことにします。

 文句も言いづらいですしね!



「お祖父様、お祖母様、そして叔父様、叔母様。皆様にお会いしたくて、いてもたってもいられず、非常識だとわかっていましたが、来てしまいました。失礼をお許しくださいね」


「何を言うんだ、ダイナ。お前ならばいつ何時訪れようとも大歓迎だよ」



 可愛い(そして不憫な)孫には甘い祖父母は、両手を広げて迎えてくれました。

 お祖父様は人目も憚らず涙ぐみながら私をハグします。

 思った通り。

 外孫でも孫は可愛いのです。



「あぁダイナ。1年ぶりかな。よくきたね。顔を見せておくれ。昨夜、手紙を受け取ったが、この時間とは思わなんだ。びっくりしたじゃないか」


「ごめんなさい、お祖父様。驚かすつもりはなかったのです」


「いや、いいのだ。お前は苦労しているから、これくらいはなんってことない」



 お祖父様は常日頃から、末娘の嫁ぎ先であるベネット家に対していい感情を持っておられません。

 何しろ溺愛していた娘が恋に落ち、駆け落ちのように結婚した相手が、貧乏な男爵家の一人息子だったのです。


 しかも実業家である祖父とは違い、ビジネスセンスがまるで無しのどうしようもない相手でした。わからなくもないことです。

 嫁がせた娘の持参金も投資に注ぎ込み(当然失敗です)、孫娘は侍女奉公に出なければならないなど、一族の恥……くらいは思っているでしょう。



「ダイナ、朝食は食べたかい?」


「実はまだです。急いで侯爵邸を出ましたから。皆様と一緒にいただいてもいいかしら。お腹すいちゃいました」


「もちろんだとも」



 お祖父様は侍従に指示し、私の席と食事の皿を用意させました。

 侍従が湯気の上がるスープを私の前に置きます。


 冷肉にチーズ。豆に茹で卵。野菜に果物。朝、屋敷で焼いたバゲット。

 なんて贅沢なんでしょう。

 お嬢様かお姫様になったようで、なんだか変な気分です。


 私は冷肉を品良く切り口に運びながら、食卓を見回しました。

 祖父母に叔父夫婦、そして従兄弟のジョンとメアリー。そしてもう一人。

 食卓の片隅に見知らぬ顔が加わっていることに気づきました。



「あらお祖父様。お客様がいらっしゃったのですか?」


「あぁ。この間からうちに滞在しているんだ」



 お祖父様は笑顔でコーヒーを啜ります。


 おや、珍しい。

 祖父母は家族だけで過ごすのを好みます。

 知り合いといえど他人の長期滞在を許すだなんて、意外です。

 お祖父様に気に入られている、ということでしょうか。


 祖父はカップを置き、「ダイナにも紹介しておこう」と言い、青年に目配せしました。

 青年は食事の手を止め、優雅に頭を下げます。



「はじめまして。ダイナさん。ネイサン・キーンです。フェルトン準男爵様のご厚意で滞在させていただいております」



 礼儀正しいし、仕草も丁寧です。着ている物も上等。

 好青年!ってところですね。


 ネイサン青年の横で食事をとっていた従兄のジョンが、口を挟みます。



「ネイサンはね、俺の大学の友人なんだ。休暇に合わせてうちに遊びに来てもらってるんだよ。アーティガル祭だし、楽しむにはちょうどいいだろう?」


「そうね、ジョン。素敵だわ」



 私の従兄弟ジョンは私より少し年上ですが、現在大学生。青春を謳歌中、なのです。

 親のお金で学ぶ学生と召使い。

 親戚でこうも所得格差があるのは少し複雑……いいえ、正直惨めです。


 でも、ここで過ごすと決めた以上、我慢しなきゃ。

 私はネイサンさんに右手を差し出し、愛想笑いを浮かべました。

読んでいただきありがとうございます!


ブックマークに評価まで!!

めっちゃ嬉しいです。

pvも先日この作品では初めて1000に届きました。

ありがたいです!


皆様に多謝を!

次回もお会いしましょう。



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